25.メイドの休憩
畑の耕しを終えた朝の9時。
私たち女性組はなんとなくまだ作業中の男性組を見守っていた。
耕した土に肥料を撒き再度耕す。中でもやっぱりジークの一振りが異様といいますか、他の方々と比べて鍬が深々と突き刺さってるんですよねぇ。
おまけに鍬を引き抜くと土が盛大に迫り上がる。
ジークの様子に私達は何も言えず、ただ息を呑むばかりでした。
というかジークの怪力が露見したのでは?
内心にそんな不安を抱えている私に先生が声をかける。
「そういえばミルフィ、アレは役に立ったかしら?」
アレというとアレですか。
先生の言うアレに心当たりが有った私は小さく微笑む。
「はい! まさか受け取ったその日に賊に侵入され役立つとは思いませんでしたよ」
それを聴いた先生は何とも言えない表情を浮かべ、小さくため息を吐いていた。
「護身用に預けた鱗粉が役に立ってなによりだわ。……まさかあげたその日に使用するとは思いもよらなかったけど」
「私もですよ。屋敷とはいえ新居にウルスラグナ団を名乗る賊に侵入されるなんて……」
「まあ、でも流石はミルフィね。賊を返討ちにしたそうじゃない」
おや、私はジークが捕縛したと触れ込んでいたのですが。
その証拠に先生の言葉にコルル達も首を傾げてますね。
「私はちょっと軽くお手伝いしただけですよ。具体的にはナイフをばら撒くとかですけど」
真実と嘘を織り交ぜた話しにコルル達は納得した様子を見せましたが、先生だけは私の瞳から眼を離しません。
私の吐いた嘘を的確に見抜き、なぜ嘘を付いているのか理解したような眼差し。
当然と言えば当然なのかもしれない。真実と嘘を織り交ぜた話術を教えてくれたのも先生です。
あと長年の付き合いで私がどんな嘘を付いてるのか理解しているのです。
「……まあ良いわ。それで? 先から気にはなっていたのだけど、あの剣はなにかしら」
「実はダイクンに鑑定を頼もうとしていた聖剣です」
「へぇ〜……ん? いまなんて言ったのかしら?」
おや? 先生が珍しく意表を突かれたような表情をしてますね。
「ダイクンに鑑定をお願いしようかと」
「その後よ、アレは何と言ったのかしら?」
いつも冷静な先生が珍しく、若干取り乱しながら確認するように聞き返してきた。
「聖剣です」
「……森の湖に突き刺さっていたあの?」
「ご存知でしたか。実は昨日の帰り道に妖精と遭遇しまして……その時に抜いちゃいました」
昨日の出来事を掻い摘んで話すと先生達の私を見る眼が変わっていた。
それはまるで可哀想な子を見るような……って! 何でそんな眼で見られなきゃいけないんですかぁ!?
まさか私が抜いた事を信じて貰えてない? でも今更ジークが抜きましたって訂正するにはちょっと遅いです。
「嘘付いてませんよ?」
「大丈夫。ミルフィが嘘を付いてないって事は理解してるよ。ただ、伝承とか昔話にもよくあるよね? 聖剣や魔剣の類いを手にした者は必然的に過酷な目に遭うって」
つまりアルリダは私を心配して……。
ちょっとだけ、ほんの少しだけ優しさに触れて感動していると。
「……夫の先祖が残した言い伝えじゃあ、森の聖剣を手にした者は爆死したって話しだし」
アルリダがボソッとそんな事を……ちょっと待って!?
「私は爆死しちゃうんですかぁ!?」
「実際は分からないよ? 大昔の言い伝えだからね」
「……もしも爆死が確定事項だったら?」
「人生楽しんだ者勝ちじゃない?」
人生楽しんだ者勝ちって……でも身体に違和感はありませんから案外迷信の類いなのでは?
いえ、迷信の類で有って欲しい! まだ15歳で恋も知らない乙女が爆死で人生の幕を閉じるなんて……笑えませんよ!
「私の運命は鑑定してからですかね。……あ! 先生の自宅に後で尋ねて良いでしょうか?」
「良いわよ。寧ろ泊まりに来ても良いのよ? 動物達もきっと喜ぶわ」
はて? 動物達とは殆ど触れ合えてませんが。
「お泊まりの件は旦那さまに伺わないといけないので、その内ですかね。……じゃあ聖剣を鑑定に出してから寄らせて貰います」
私は先生と約束を取り付け、ジークの作業が終わるまで女性組だけで色んな話し繰り広げたのでした。
メイド業務に生きる私にとってコルル達の話しはどれも新鮮で、家族の団欒にちょっとだけ憧れちゃいますね。
明日もお昼か夜に更新します。