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19.メイドと雑談と

 仕立屋コルルからノームの自宅に移動した私とジークは、畑仕事に精を出すノームに声を掛けた。


「昨晩借りた道具を返しに来ましたよ〜」


 天気が良かったから間延びした声が出ましたが、彼は一旦作業の手を止めてから此方を振り向く。

 そしてジークが手に持ったスコップを注意深く観察してから、


「……血痕は着いてないな?」


 どうやら彼は昨日からずっと勘違いしていた様子ですね。

 隣で察したジークが苦笑を浮かべてますが、私ってそんなに血気盛んに見えるんですかね。

 ちょっと心外に感じながら私は彼の勘違いを訂正する。


「昨晩の件は穴掘りに必要でしたので……3人組と関係有りませんよ」


「何だぁ〜勘違いかぁ」


 ノームはホッと胸を撫で下ろしてからジークからスコップを受け取った。

 その際にジークをじっと見つめて何か思い出した様な表情を浮かべ、


「実はここの村人は毎朝訪れて畑の手入れを手伝ってくれるんだ。流石にオラ一人で村人全員の野菜を無償で提供する! なんて気前の良いことは言えなくてね」


 あぁ、それは当然ですよね。何せこの村では金銭の収入が殆ど見込めませんし。


「つまりわたしとメイドにも作業を手伝って欲しいと。良いだろう!」


「こんなこと貴族の領主さまに頼むのは……ん?」


 ノームは2、3度瞬かきを繰り返してから漸くジークの言葉が理解出来たのか、面白いくらい表情が激しく変化しました! 


「手伝ってくれるのか!?」


「うむ。頂いた物に対価を払うのは当然であろう、メイドも異論は無いな?」


「旦那さまが決定する事に異論はありませんよ。何よりここの畑で採れる野菜は美味しいですから」


 そう、手伝う事に関しては異論はありませんとも。


「そうかぁ! それなら明日の朝5時から頼むよ!」


 ノームが笑みを浮かべる中、ジークは何やら思案してから私に顔を向け、


「ふむ。丁度良い機会か? メイドは昨晩の事を覚えているか」


 突然そんな事を……昨晩ってお風呂事件のことでしょうか!?

 やだ、ジークはノームに昨晩の事件のことをお話しするつもりですかぁ? 

 そんな事を思うとジークの至極真面目な表情を見て私は理解しました。

 そう言えば、追放村発展計画に加担して貰うとか言ってましたね。

 具体的なことは何も言われてませんが、一体どんな計画で進めるのでしょうか?


「追放村発展計画ですね。今更ですが、具体的にどう進めて行くんですか?」


「領主さまはそんな計画を……ごくり」


 おや、ノームが緊張感を漂わせて眉唾を呑みましたね。

 そんなに緊張されると悪巧みしてるみたいじゃないですか。

 そんな事を思うと今度はジークがすごく、物凄く悪い顔で笑みを浮かべました……待って? 本当に悪巧みですかぁ!?


「先ずは宿泊施設の建造、必要最低限の人員確保に村の特産品を決める事から始めねばならんが、最終目的はこの村を人間と魔界を繋ぐ架け橋とさせることだ」


 悪巧みどころか顔に見合わず真っ当な考えですね! 


「凄く悪い顔してたから悪巧みを考えていたのだとばかり!」


「計画途中でわたしをこの地に飛ばした連中が悔むだろうな!」


「わぁ〜凄く悪い顔してますねぇ」


 ほらノームだってドン引きしてるじゃないですか。

 でもジークに敵対心を抱く商人が発展して行く村を見てどう考えるでしょうか? 貴族の領主なら領土戦争を仕掛け奪う。

 蛮族的なやり方ですが、ミルデア王国は領土争いが多い国だから可能性は有るんですよね〜。

 それに比べて魔界は平和でした。土地と資源に恵まれた環境と魔法という力に対する認識が戦争回避に繋がっているとユヒナから教わったんですよね。

 まあ、魔界にも軽犯罪は有りますけど違法カジノなんて領土戦争と比べたら可愛いもんです。

 ミルデア王国の情勢と魔界の平穏さに思わずため息が漏れると。


「魔界と人間の架け橋。オラ達のような追放者が……?」


 ノームが疑問と不安を宿した面持ちで言った。

 私達は追放された者、これはどう繕っても覆せません。果たしてジークには一体どんな考えが有るのでしょう?


「2人の疑問も理解してるが、村名も改名しなければならん。それよりも先にやることは多いがね」


「確かに追放村名物〜ノーム農園の野菜〜なんて格好が悪いよなぁ」


 それは確かに格好が悪いですね。


「それだと私は追放村の領主に仕えるメイドですよ。悪事を働いた筆頭のメイドって印象が強いです」


「君の重罪に較べればかわいいものではないかね? というかわたしは無罪、嫉妬混じりの策略によるものなのだがな」


「オラは畑に成長促進の魔術を使って土地を枯らした罪でだけど、メイドと比べたら軽いかも?」


 土地を枯らした罪は相当重いのでは!? いえ、魔王暗殺を未遂とはいえ任された私が言えた事では無いですね。


「待て? ノームは土地枯らしの罪だとして……コルル達はなんだ?」

 

「詳しいことは知らないけど、コルルは貴族令嬢の注文通りに仕立てられなかった結果だとか。マデュラは坑道崩落事故の濡衣を着せられ……ダイクンは聖剣の鍛造を断った報復で追放されたと聞いているなぁ」


 想像以上に追放理由が不当ですね! 

 まあ、そんな判決をくだす領主の下で暮らしたいかと言われれば無理ですけど。


「村人の追放理由は大体分かった。ふむ、後日改めて村人を集めて会合を開くとしよう」


「どんな議題で会合を開くんです?」


「村の改名案、特産品、村に必要な物に付いてだな……あと望ましい人材と職人だ」


「そうかぁ。ならオラの方で事前に話だけはしておくよ」


「会合の日取りと場所に関してはメイドに追って通達させる」


 私の意見を挟むこと無く話は転々拍子で決まり、その後マデュラから借りた道具を返却してから私とジークは屋敷に帰るべく森へ向かうのでした。

 まさか帰路があんな事になるなんて……

 

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