17.メイドと子供
私は借りた道具を運びながらジークと森を抜け、村に到着していた。
先にコルルに支払いを済ませてから借りた道具を返す。それが今日の村での予定なのですが、私たちが村を歩き出すと。
「みないかおの2人〜。ひとりはすごーいこわいー!」
「もうひとりは……おかあさんよりぺったん?」
二人の元気な男の子がそんな事を言いながら私達の下へ駆け寄って来ました。
ジークの顔に恐れないとは将来大物になるかもしれませんが、彼らに言うべき事が有ります。
私は立ち止まった二人に目線を合わせながら肩を優しく掴んだ。そして微笑んだ。
「良いですか? 女性の胸を指摘してはダメですよ」
すると聞き分けが良いのか二人はこくこくと頷きましたが……あのジーク? その、コイツ脅しやがったよ的な視線やめてくれません?
そんなジークの視線なんか無視してまずはあいさつしないとですね。
「よろしい。あと私はミルフィって言いますが、お二人は?」
私が尋ねると青髪の男の子が口を大きく開き、
「あっ! ボクはむらゆいいつのこうふのむすこレオス!」
元気な声で名乗った。
そして隣に居る……親の遺伝か、レオスより頭一つ分背が小さい茶髪の男の子が、
「むらゆいいつの〜かじやのこダルニ」
おっとりとした口調で名乗る。
「レオスとダルニですか。こちらの方はですね」
私はジークに視線を向けると彼は、子供たちに目線を合わせてから名乗り出した。
「わたしはジーク・リンデバルドだ。君達の父には世話になる」
「おねえちゃんとおじさんは今からどこにいくの?」
純粋無垢な眼差しで尋ねるレオスの言葉にジークが小さく。
「お、おじ!?」
別段老けては見えませんが、そういえばジークはいくつなんでしょうか?
まあ、そんな疑問より質問に答えてあげないと。
「お姉ちゃんとおじさんは、これからコルルの所へ行くところですよ」
「したてやのおねえさん! ぼくの服もおねえさんが作ってくれたんだぁ」
「おや、実は私の仕事着もコルルが作ってくれたんですよ」
「みんなの服はおねえさんが〜みんなおそろいだねぇ〜」
村唯一の仕立屋ですからね。あとジークは恐らく違います。
なんてそんな野暮なツッコミを胸の内に仕舞い込み、ふと村の中心でこちらに向かって……正確にはレオスとダルニに手を振る二人の女性が見えますね。
……確かに二人は私よりも立派な果実をお持ちのようですが、まだ私は成長期のはず! きっとこれから成長するんですよ身長とか色々ね。
「あちらはレオス君とダルニ君のお母さんでしょうか?」
私の質問に二人は振り返り、眩い笑顔で頷いた。
ふむ、子供というのは純粋でかわいいですね……生意気で無遠慮なのが偶に傷ですが、子供ですから仕方ないです。
そんな事を思っていると二人は同時に母親の下へ駆け寄り、二人の母親が此方に軽く頭を下げ、先生の自宅へ向かって行きました。
風邪の予防薬の摂取か将来の占いでしょうか? まあ、占いと言っても将来の道筋の参考程度にですけど。
と、私はすっかり四人の姿が見えなくなった頃に、
「旦那さまはお幾つ何ですか?」
さっきの疑問を解消するために質問する。
すると彼は若干精神的ショックが拭えないのか、覇気の無い声で答えた。
「……24だ」
おや、若いじゃないですか。
「24で成り上がる……さぞかし敵も多いことでしょうね」
「うむ。商人として12年の間にわたしは敵を作り過ぎたようでな……まあ、見掛けと怪力も原因だとは思うがね」
確かにジークの事をよく知らない人からしたら、悪魔顔の怪力は非常に恐ろしく映り込むかも。
もしもジークがまだ魔物が生存していた古の時代に産まれていたら英雄扱いされていたかもしれません。
……やっぱり英雄扱いよりも、当時存在していた宗教絡みで良くない扱いされてたかもです。
地獄より出る悪魔だ! なんてちょっと想像したら何だか悲しくなるではないですか。
「私も旦那さまのことはよく知りませんが、身の危険を感じない程度には信用してますよ」
だって私に触れられませんしね! というか裸体を見ても気絶します!
これほど女性に安全な男性というのも珍しいでしょう。
「……不本意な信用を得た気がするのだが? まあ良い、さっさと行くとしよう」
私は歩き出すジークに続くと、彼は不満そうな眼差しを向けて来た。
「どうしたんですか?」
「昨日もそうだったが、なぜメイドはわたしの3歩後ろを歩く?」
「本来メイドをはじめ、使用人は雇主の隣を歩かないものです。旦那さまの隣を歩いて良いのは奥方や家族に知人友人ですよ」
こればかりは身体に染み付いたものなので、例えジークに隣を歩けと言われても無理です。
というかうっかり接触して気絶されでもしたら大変ですからね。あとまだ骨を粉砕したくありませんからね!
「……不満も有るでしょうが、これでも接触を避けるための配慮なんです」
「うむぅ、そう言われると何も言えんな」
納得したのかジークはそのまま歩き出しました。
その後を私は付いて歩く。……そういえば誰かの隣を歩いたことなんて無いような? 止めよう、これ以上は悲しくなる。