14.メイドと早朝
「コケコッコー!!」
朝日とシュラウドの鳴き声に私は軽快な目覚めを迎えた。
ベッドから降り、ドレッサーの前で着ぐるみのファスナーを降ろす。
鏡に上半身を半脱ぎにした私の姿が映り込む。ふむ、シルクの布地にピンク色の下着も中々悪くはないですね……サイズが寸分違わずぴったりなのは驚きましたが。
「あっ、朝6時半ですね。旦那さまの起床時間を確認するの忘れてましたが、まあ朝食は無難にパンとそら豆のスープにしますか」
さっそく朝食の献立を決め、腕を出してドレッサーに置かれた水瓶から桶に水を移し、手早く洗顔と歯磨きを済ませる。
そしてブラシを取り髪を解く。
いつも通りに髪をストレートにして、今度は着ぐるみを脱ぎ、新しいメイド服を手に取る。
黒の基調でスカート丈が短いエプロンドレスを着て、ホワイトブリムを被って黒タイツを穿いて身支度完了。
鏡に映る完成された私の姿とコルルが仕立てたメイド服が映りましたね。
「うん。身支度良し、いつも通り美少女の私ですね」
誰も聞いていない自画自賛を述べ、今日のメイド業務開始です!
▽ ▽ ▽
さてさて、本日の業務は屋敷の掃除……特にホールの修繕、シュラウドを調理して昼食を提供する。
あとは【仕立屋コルル】に代金の支払いですかね。
ざっくりとした一日の予定を浮かべながら一階西の廊下を進むと窓の外に汗を滲ませたジークの背後が……っ!?
あの人は上半身裸で何をしてるのでしょうか!
私が驚き言葉を失うのも他所にジークは拳を構える。
すると彼は空に拳を打出し、それを何度も素速く繰り返す。もしや鍛錬でしょうか?
それにしても打ち出す拳一発一発が鋭く重い、何よりも目で追うのがやっとのほど速い。
むむっ、まさか私の動体視力で捉え切れないとは。
若干の悔しさを感じながら少し寄り道をしてからホールに移動した私は、順調に掃除と修繕を進めました。
屋敷の全体の掃除と朝食の調理を2時間で終わらせ、またホールに向かうと偶然上半身裸のジークとばったり出会う。
男性の裸体なんて見慣れて無い私は、それを意識しない様にしながら。
「おはようございます旦那さま。朝のおかげは如何でしょうか?」
立ち寄ったクローゼットから取り出したタオルをジークに手渡す。
すると彼はそれを受け取り汗を拭きながら軽快な笑みと共に、
「朝から絶好調だ! 思わず2時間も鍛錬してしまうほどにな!」
えっ? そんなに鍛錬してたんですか。
ジークは努力家なのかもしれませんね。
「それではさぞかしお腹も空いていることでしょう。さっそく朝食にしますか?」
「ほう、随分と気が効くではないか。因みに朝食は?」
「焼き立てのパンとそら豆のスープです」
告げた朝食にジークは悪魔顔を若干強めながらため息を吐いた。
彼も食材が無い事を理解してるのでしょう。というか屋敷に燻製肉や保存食も備蓄されてないんですよね。……調味料は有るのに。
「む? ホールの修繕も終わっているようだな。ならば先ずはシャワーで汗を流すか。……その間メイドはどうするつもりだ?」
「その間にベッドのシーツを回収しますよ。あと脱衣所の籠は廊下に出して置いて貰えませんか?」
「良かろう」
軽快に答えた彼はそのまま浴室が有る一階西の廊下へ向かって行きしまた。
さて、ジークの部屋は二階東の最奥でしたね。
▽ ▽ ▽
シーツと昨晩の洗濯物を回収した私は庭で洗濯に勤しむ。
軽快な空と北風の寒気、そしてタライ一杯に注いだ水が冷たい。
それでも丁寧に洗った洗濯物を物干し竿に乾かすと気持ちが良いもんです。
「ふふっ、我ながら完璧な手際ですね。あとはパンを焼いておけば丁度良いですね」
ふとシュラウドが不思議そうに私の方を見つめていましたが、まあ彼とはあと数時間程度の付き合いです。
これもジークのお腹と欲求を満たすための仕方ない犠牲。
私は見詰めるシュラウドから視線を逸らし、厨房へ向かった。
石窯に火を着け、十分に鉄板が温まった頃合いで昨晩作って置いたパンを取り出す。
パンの中に一切れのバターを入れ、石窯の中にパンを入れる。
焼き上がる間にそら豆のスープを温め直す。
それからしばらく待つとバターの芳ばしい匂いが漂うじゃありませんか。
石窯の蓋を開けるとふっくらと膨らんだパンが6つ。
これで朝食の完成ですね……かなり物足りないですが。
その後私とジークは一緒に朝食を食べ、食後の紅茶を楽しんだあとに私は庭を動き回るシュラウドを厨房へ連れて行くのでした。