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12.魔王少女とメイドの残影

 ミルフィを国外追放にしたのは誰だ? 魔王である私自身だ。

 なぜこんな事を思っているかと問われれば、私の朝食に出された料理に不満が有る。


「ねえ、オムライスにハートマークが無いじゃない」


 そう、出されたオムライスにはハートが無い。これじゃあ普通に美味しいだけのオムライスよ。

 新しく専属に就任したリゼットにそんな不満を尋ねると、彼女は困り顔を浮かべていた。


「オムライスにハートマークって何の意味が有るんですか? それから食事前に服を着てくださいよ」


「断る。私はね、自室ぐらい好きに寛ぎたいのよ」


 今の私は全裸だ。全裸だからリゼットは目のやり場に困っているのか私を見ようとはしない。

 ちゃんと長い髪毛で隠れてはいけるけど、慣れないとダメなのかしら?

 それに比べてミルフィは、最初は困惑していたけど数分で慣れて気にした素振りを見せなかったわよ。

 その点リゼットはまだまだ初々しいわね。まあ、就任してまだ日が浅いものね。

 ……こんな事を考えるぐらいならミルフィを国外追放にしたのは間違いだったかもしれない。


「あと愛情表現のポーズも足りないわね」


「あ、あんな恥ずかしいことやるのはミルフィぐらいですよ!」


 細長い尻尾を逆立てながらリゼットはそんな事を。

 あれ、そんなに恥ずかしいかしら?

 ミルフィなら超ノリノリで『美味しくなぁれ〜』ってポーズまで決めてやってくれたのになぁ。


「まあ良いわ。貴女の腕前見せてもらおうじゃない」


 さっそく私はオムライスをひと口食べる。

 デミグラスソースとケチャップライス、玉ねぎの甘味と塩胡椒にコンソメが効いた味が口内に広がった。

 うん、私の嫌いなにんじんとピーマンが入ってないのは賞賛に値するわ。けどオムライス事態の味付けは平凡。

 黙々と食べ続ける私の様子にリゼットは、ずっと恐る恐ると言った感じで緊張していた。

 そんなに緊張することないじゃない。

 緊張するリゼットを他所にオムライスを完食した私は、


「普通の味付けだったわ。でも明日からこの調子で頼むわよ」


「かしこまりました。それから本日のご予定を伺ってもよろしいでしょうか?」


「予定ねぇ。公務と謁見ぐらいで特に変わったことはないわ。要するにいつも通りね」


「かしこまりました」


 うーん、それにしてもリゼットは中々の物をお持ちじゃない。

 私とミルフィは貧乳仲間だったから共感もできたけど……はぁ〜ほんと如何してあの子を国外追放にしちゃったのかしら。

 思わずため息が漏れるとリゼットが心配そうな表情で訪ねてきた。


「何かお悩みですか?」


「悩みとは違うけどね……ミルフィの事よ」


「ミルフィを追放して1日経過したばかり、何を悩む事が有るのですか?


「話し相手、遊び相手。少なくとも私はミルフィに気を許していたわ。そりゃあもう一緒に城下町へ出掛けるぐらいにはね」


「そこまで……ん? いまなんて?」


「話し相手兼遊び相手よ」


「違います。その後ですよ」


「城下町へ出掛けたってことかしら?」


「そうですよ! 魔王様はここ3年は一度も魔王城から外出した事が無いひきこもりじゃないですか! それなのにいつの間に脱ひきこもりしたの!?」


 おい、リゼット。口調が崩れてるわよ。

 まあそれはさて置き、私は根っからのひきこもり気質だ。それは今でも変わらない。


「ミルフィが作っちゃったのよ。城下町に続く隠し通路を私の部屋に!」


 そう、私の部屋に有る本棚の裏には隠し通路が有る。 

 どうやって大理石の壁を貫通させたのかとか諸々ツッコミは有ったけど、聴けばツルハシで掘ったらしい。


「……あの子はそんな事を!? って侵入者が入ったら大変じゃないですか!」


「そこは大丈夫よ。入口は私とミルフィの固有魔力にしか反応しないから」


「それなら安心……いえ、あの子と城下町まで何をしてたんですか? まさか如何わしいお店であんな事やそんなことを?」


 若干鼻息を荒くリゼットはそんな事を……コイツは何を言ってるのだろう? 私に同姓趣味は無い。

 単にミルフィは愛玩動物兼友人ってだけ。


「ちょっとカジノとかに行っただけよ。ま、そこが違法カジノって情報も有ったからね。私とミルフィで潰したわ」


 お陰で私のお小遣いは潤い、ミルフィは魔族の孤児院に全額寄付してたわね。


「あっ、去年に起こった違法カジノの件はそういう事だったんですか」


「そうよ。それと隠し通路の件は口外しないように。したらどうなるか分かってるわね」


「は、はい! 何も聴いてません!」


「ならばよろしい。……魔王の立場じゃなかったらミルフィはずっと側に置いたんだけどねぇ」


「魔王様。今からでもミルフィの身柄を要求しては如何ですか?」


 国外追放処分にして直ぐに身柄の要求? それは魔王としてあまりにもダサい。

 特に魔王の命が人間に狙われた事実は、国民に知られる訳にはいかない。

 普段ひきこもりで裸族の私だけど、こう見えて国民にはかなり慕われて愛されている自負が有る。

 そんな国民が知れば暴走するかもしれない。それは魔王としても避けたい。


「戦争の火種になりかねない起爆剤を置いておく訳にはいかないわよ」


「まぁ、そうですよね。……それならミルデア王国も同様の考えなんじゃ?」


「小心者と噂のゲラルド王ならその可能性は多いに有るわね」


 それならミルフィは何処へ行ったのかしら?

 最近南に有る山脈の向こう側に村が作られているって報告が有ったけど……いや、最近って程の話でも無いけど。


「……この気に人間と交流してみようかしら」


 ミルフィを通じて多少なりに私は人間という者を知った。

 なら私が先導して上手く関係を構築して行けばひきこもりのまま平穏に暮らせるかもしれない!


「ふふっ! 先ずは計画を練らないとね」


「魔王様が楽しそうで何よりですが、いい加減に服を着てください。公務の時間が迫ってますよ」


 こうして私はリゼットに急かされる形で着替え、仕事に移るので有った。


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