#バズりたい人たちのお手伝いをするだけの、簡単なお仕事です(1/2)
聖女レジーナ。
レジーナさんは信者離れが深刻化して、寂れる一方の教団に現れた救世主だった。
レジーナさんは教会を大胆なアイデアで飾り立て、その念写をMNSに投稿。今までの厳格で近寄りがたい場所から一転して、教会は『映える』スポットになった。
その結果、教会を訪れる人は何十倍にも増えた。信者の数もぐっと伸びて、教団は消滅の危機を免れる。
その功績を称えられて、レジーナさんは『聖女』に列せられるようになったんだ。つまり、教団の中でも特別な地位にある人ってことだ。
レジーナさんはMNSの力で教団を救った人。だからきっと、私たちの助けになるに違いない。
私は、そんなふうに言ったケントさんの言葉を思い出しながら、中央聖教会の門を潜った。
「神はこうおっしゃいました。汝、MNSの力を信ぜよ。信ずる者は救われる」
そんなにすぐに見つかるかな、って思ってたけど、レジーナさんは目につくところにいた。祭壇の前で、ありがたいお言葉を信者の皆さんに語ってるところだった。
「MNSは全ての者に幸福をもたらす。MNSは地上における、神を代弁する存在である」
それにしてもすごい人の数だ。老若男女、大勢が長椅子に腰掛けて、レジーナさんの説教を聞いている。
もしかして、信者っていうよりも、レジーナさんのファンの人たちなのかな。さすがフォロワー数八十万を誇るインフルエンサーだ。
レジーナさんも信者さんたちも、こっちには気が付いてない。ケントさんが、近くにいた聖職者のおじいさんに声をかけた。
「すみません、僕たち、レジーナさんとお話がしたいんですけど……」
「あんたらも、あのSSRとかいうのを見て来たんですか。はいはい、どうぞこっちへ」
こういうことには慣れてるのか、おじいさんは奥の方へ私たちを通してくれた。後、SSRじゃなくてMNSだ。SSRだと、なんかレアリティが高そうな名前になっちゃうよ。
……ん? 何だかヒソヒソ話す声がする?
私が振り返ると、若い女性の聖職者たちが、隅の方でたむろしていた。その人たち、もしかして私たちのことを話してたのかな? 私と目が合うと、気まずそうにどこかへ行ってしまった。
「リタさん?」
私が急に立ち止まったことに気が付いたケントさんが、声をかけてくる。ちょっと気にはなったけど、私は「何でもないよ」と言って、おじいさんの後に続いた。
「それじゃあ、ここでちょっと待っててください」
おじいさんは、教会の裏手にあった修道院の客間に私たちを通してくれた。彼が出て行くと、私とケントさんは二人きりになる。
「なんていうかこの教会、意外と地味なところですね」
ケントさんが客間を見回しながら言った。
そういえば、と私も首をひねる。レジーナさんが教会を飾り立てたのは、今から八年くらい前だったかな。その時の念写のインパクトは、未だに私の脳内に焼き付いていた。
ピンクで塗り立てられた礼拝堂の外壁と、巨大な天使の羽で飾った聖像。天井には魔法で虹を出現させ、辺りには綿菓子でできた雲が浮かんでいる。それをついばんでいるのは、カラフルなフラミンゴだ。
その念写と一緒に映っていたレジーナさんの格好も、とにかく派手だった。
首元は詰まっているのに、腰まである大胆なスリットがついた異国趣味の衣裳をまとって、その上から、これでもか! ってくらいにフリルを縫い付けた聖職者用のローブを羽織っていた。
髪も、扉にぶつかりそうなくらいに盛ってたと思う。それだけじゃなくて、髪色も、目がチカチカするような蛍光色をしていたはずだ。
それこそ、私のおじい様なら、「ここは芝居小屋か?」って言いそうな雰囲気だ。
でも、今日来てみた教会は、『THE・教会』って言葉が似合う、神聖そうな、落ち着いた場所だった。外壁もピンクじゃないし、どこにもフラミンゴはいない。この客間も、机とか椅子が置いてあるだけの、普通の部屋だ。
そういえば、レジーナさんも全然派手じゃなかったね。『THE・教会』にいる、『THE・聖職者』って感じだった。
私は昔のレジーナさんの念写を見たことがあるから顔を知ってたけど、そうじゃなかったら、祭壇にいたのが、あの盛りまくったインフルエンサーと同一人物だとは思わなかったんじゃないかな?