#開き直った聖女と僕たちの話し合い(1/3)
「あの……すみませんでした」
レジーナさんの部屋の家宅捜索から一時間半あまり。僕とリタさんは、散らかり放題になった居間で、レジーナさんに平謝りしていた。
「あらあら、もう気はすんだのかしら?」
レジーナさんは深緑の目をつり上げて、僕たちを見下ろす。
「どうせなら、アタシの体の中も解剖してみれば? お目当てのものが出てくるかは知らないけど」
「ご、ごめんなさい……」
部屋の中の、ありとあらゆるスペースをほじくり返して調べた結果、二冊目のMNSの書は見つからなかった。
それに、MNSの書だけじゃなくて、他の怪しげなものの痕跡もまるでなかった。
僕が見つけたのは、しまわれていたレジーナさんの肌着くらいだったんだけど、その時のことを思い出すと、頬が熱くなってくる。
でも、これである確証が持てた。レジーナさんは悪役令嬢Rじゃなかったんだ。っていうことは、『厨房を荒らした犯人でもない』ってことになる。
「あの……レジーナさんは、皇帝陛下の……」
話をそらそうとしてか、リタさんが別の話題に触れる。
……あっ、それ聞いちゃうんだ。早く忘れてあげた方がいいような気もするけど……。でも、正直に言ったら、僕も気にはなっていたんだけどね。
「その……皇帝陛下のファン……なんですか?」
ファン……ファン? そんな言葉じゃ生ぬるいんじゃないかな? 僕の頭の中に、レジーナさんが陛下に腕枕されている、加工済みの念写が浮かび上がってくる。
「皇帝陛下は、もはや宗教よ」
レジーナさんは、大真面目な顔で聖職者にあるまじき発言をした。
「嫌なことがあると一人になって、皇帝陛下のご尊顔を拝するの。そうしたら、体の中からドロドロしたものが、スーッと抜けていくのよ! 尊さのあまり、寿命が延びるわ!」
そ、そうなの? 僕にはよく分かんないけど……。でも、リタさんもちょっと納得したみたいな顔してるから、きっと分かる人には分かる感覚なのかもしれない。
「レジーナさん、前に、『自分の恋人は神だ』って言ってましたよね?」
リタさんの口から、さらにとんでもない言葉が飛び出した。か、神……?
「それってつまり……『神=皇帝陛下』ですか? ほら、さっき『皇帝陛下は宗教』って言ってたし」
「当たり前よ! 実在する神よ! 女神かもしれないけど! どっちにしろ、拝まずにはいられないわ!」
居直ったレジーナさんは、素直に瞳をキラキラと輝かせていた。ま、眩しい……! これは恋する乙女の目だ!
「私、ある人から、レジーナさんが私たちの投稿を見て機嫌が悪くなったって聞きました」
リタさんも目を細めている。そんなこと、あったの?
「今思い出したんですけど、あれは私たちの投稿を、皇帝陛下がシェアしてくれた日でした。後、コメントも頂いて……」
「何よ! 嫉妬したら悪いって言うの!?」
レジーナさんは目を固くつむった。
「皇帝陛下にシェアしていただくなんて! しかも、お言葉まで……! アンタたち、果報者すぎるわよ! アタシだって、そんな名誉、未だに受けたことないのに! 悔しくって体調崩しちゃったのよ!」
「それなら、自分から話しかけに行ったらいいのに」
レジーナさんがあんまり拗ねた声を出すから、僕は苦笑いしてしまった。
「レジーナさんくらいのインフルエンサーなら、絡みに行ったって別に……」
「じょ、冗談じゃないわ!」
レジーナさんは目を見開いた。
「アンタ、ふざけてんの!? そんな恐れ多いこと、できるわけないでしょう! 皇帝陛下にはしたない女だと思われたらどうすんのよ!」
レジーナさんは震え上がっている。話したいけど、自分からは無理。乙女心って複雑なんだなあ……。
「レジーナさん、最近何か燃やしましたか?」
リタさんが変な質問をした。
「前……夜に訪ねて行った時、レジーナさんから焦げ臭い匂いがしたんですけど」
「夜に……? ああ、あの日かしら?」
レジーナさんは、何か心当たりがあるみたいだった。
「アンタ、手紙の念写、見たでしょう? ええ、そうよ。『皇帝陛下からいただいた』っていう体で、アタシが自分で書いたラブレターよ」
もはやレジーナさんは隠そうともしていなかった。なんか、聞いているこっちが恥ずかしくなってくるような遊びだ。
いや、レジーナさんは真剣だから、『遊び』なんて言葉を使ったら、失礼になっちゃうのかな。
「その念写を撮り終わったから、手紙を燃やしてたの。証拠隠滅よ。あんなの誰かに見られたら、アタシ、恥ずかしくて一生表に出られなくなるもの」
うう……ごめんなさい。本当にごめんなさい。
誰にでも知られたくない秘密って、一つや二つくらいあると思うけど、僕たちはそんなレジーナさんの『秘密』を、無理矢理暴いちゃったんだね……。




