#求む、インフルエンサー!(2/2)
「この帝国で一番のインフルエンサーって言ったら……」
リタさんが唸る。
「皇帝陛下」
二人の声がハモった。僕たち、結構気が合うのかも。
いや、他の人にこの質問をしても、多分同じ答えが返ってくるかな。
この帝国の最強のインフルエンサーは、文句なしに皇帝陛下だ。
一万どころか、百万いいねは当たり前。三千万人のフォロワーを持つ彼は、『全国民の恋人』、『MNS界でも帝王』、『麗しさで国が傾く』なんて賞賛されてる。
まあ、国を傾けたことはない。投稿に反応が寄せられすぎて、魔法回線をダウンさせたことなら何回かあるけどね。
「でも、さすがに皇帝陛下に協力は頼めないかな……」
リタさんは、珍しく及び腰になっていた。僕からしたら、貴族も皇族も大して違わないように思えるんだけど、そんなことないのかな?
「やっぱり貴族でも、難しい感じですか?」
「宮廷にツテでもあれば別なんだろうけど……。私の両親はね、二人とも別々の国で、駐在大使をしてるんだ。その暮らしも長いし、そのせいで帝国の宮廷では、あんまり顔が利かないの。上司の外務大臣とも、ビジネスライクなお付き合いしかしてないみたいだしね」
「そうだったんですか。じゃあリタさんは、ご両親とは一緒に住んでないんですね?」
「うん。この家に居るのは、私と妹と祖父母だけだよ」
でもね、とリタさんは続ける。
「その祖父も、若い頃から領地で色んな事業をやってて、宮廷には伺候してなかったんだ。だから、コネっていうのかな。そういうのがないんだよね。祖母の実家もすっごい田舎で、宮廷どころか帝都にも無縁の暮らしをしてたらしいし」
伺候するっていうのはつまり、身分が高い人……ここで言ったら皇族かな? そういう人たちに仕えることだ。
それで、リタさんの話によると、彼女の身内は、あんまり宮廷に縁故がないみたい。
僕は貴族のことなんてよく分からないけど、リタさんが難しいって言うからには、ダメなんだろう。
「じゃあ、別のインフルエンサーが必要ですね」
「……でも私、悪役令嬢Rって思われてるんだよね」
リタさんが口を曲げた。
「そんな私に協力してくれる人って、いるのかな?」
「それは……」
いないかも、なんて言えない。僕がなんとかできない以上、他の協力者が必要なんだから。
その時、悩んでいた僕の頭に、奇跡的にひらめくものがあった。
「レジーナさん!」
「……レジーナさん?」
僕の突然の大声に、リタさんはきょとんとした顔になった。
「レジーナさんって、『聖女レジーナ』? 教会に仕えてるインフルエンサーの……」
「はい、そうです」
僕は頷いた。
「ほら、教会の教えにもあるじゃないですか。『神は困ってる人を見捨てない』みたいなのが。僕たち、すごく困ってます。レジーナさんは聖職者だから、きっとそういう人を見捨てたりはしませんよ」
「そういうものかな?」
「僕たちを受け入れてくれるインフルエンサー……聖女レジーナさんは、その条件にぴったり合うと思いませんか?」
「なるほど、言われてみれば……」
リタさんは段々納得してきたような顔になる。
「確かレジーナさんは、中央聖教会にいるんだよね?」
リタさんは、壁に貼ってあった帝都の地図を見た。
「この家から近いね。……ねえケントさん。今から会いに行かない?」
リタさんの誘いを、僕は二つ返事で了承した。彼女の役に立つことができて、僕は何よりも嬉しかった。