#求む、インフルエンサー!(1/2)
「ケントさん、こっちだよ」
僕は今、生まれて初めて貴族のお屋敷に足を踏み入れていた。
フォロワーさんが心配で裏門でウロウロしていた僕は、自業自得なんだけど、不審者に間違えられて、ボコボコにされかかった。
でも、なんとかその誤解は解けて、こうして正門から堂々と入れてもらえることになったんだ。
貴族の屋敷って、きっと金ピカで派手なんだろうな……って入る前は思ってたんだけど、リタさんの家は別にそんなことなかった。
寄せ木細工でできた床はピカピカに磨かれてるし、窓ガラスには一点の曇りもないけど、調度品なんかも落ち着いた色合いで、くつろげる場所って雰囲気だ。
僕を先導して歩いてるリタさんも、この屋敷にふさわしい人だった。金色の髪の先がゆったりと肩甲骨の辺りで揺れていて、青い目も深い色合いで大人っぽい。
でも、そんな穏やかそうな外見とは裏腹に、リタさんは激情家っていうか、強気な人だった。少なくとも、初対面の僕のことを、箒で撃退しようとするくらいには気が強い。
リタさんの作る作品はどこか温かみがあって、ほっこりするものが多かったから、ちょっと意外だった。でも、そういうギャップもリタさんの魅力なのかな。
目が離せない力強さがある。だから、リタさんが一万いいねを取るのに、協力する気になったのかもしれない。もっと近くでこの人を見てみたくなったんだと思う。
もちろん、リタさんの作品にいつも楽しませてもらってるっていうのも、本当だけどね。
「適当に座って」
リタさんは私室に僕を通してくれた。花柄の壁紙と、秒針のない丸形の柱時計が可愛い、いかにも女性が住んでるって感じの部屋だ。
……ど、どうしよう。僕、家族以外の女の人の部屋なんて、入るの初めてなんだけど……。
「ケントさん、お菓子食べていい? 私、すごくお腹空いてて……」
でも、リタさんはそんなこと、全然気にしてないみたいだった。一人でオロオロしてたのが恥ずかしくなって、僕はちょっと苦笑いした。
「じゃあ、早速『作戦会議』ってやつ、しよっか」
リタさんはクッキーをモグモグしながら、アイボリーのふかふかしたソファーに座った。
僕もその向かいに腰掛ける。……すごく座り心地がいい。さすが貴族の家。
リタさんの部屋も、僕の家の居間の十倍以上はあるし、このお屋敷自体も、一度に千人は泊まれるくらい広そうだ。やっぱり貴族って、住んでるところからして平民とは違うんだなあ。
「実はね、私、MNS、あんまり詳しくないんだよね」
クッキーを飲み込むと、リタさんは深刻な調子で切り出した。
「流行とか関係なく、自分が作ったものを載せてるだけだったし……。当然、たくさんの反応なんてもらったことないの」
「……僕はアカウント持ってるだけで、何か投稿したこと一度もありません」
今になって僕は、自分は協力者としてあんまりふさわしくなかったんじゃないかな、と思ってしまった。
一瞬、僕たちは沈黙した。もしかしてリタさん、僕のこと頼りないって思ってる?
僕は焦って、失態を挽回しようと頭をフル回転させた。
「もっと詳しい人に協力してもらった方がいいかもしれませんね」
「詳しい人?」
「はい、いいね獲得に詳しい人です」
「いいねに詳しい……。それって、インフルエンサー?」
リタさんが、ぽん、と手を打った。
インフルエンサー。MNS上での有名人のことだね。確かにそういう人なら、いいねにも詳しいかもしれない。
さすがリタさん。いい勘してる。