#恋人じゃないの?(3/4)
「それから……そうね。ある程度、念写も溜まってきたし、どんな投稿が伸びやすいのか、色々と分析してみるのもいいんじゃない?」
「分析……ですか」
言われてみればそんなこと、したこともなかったし、やろうなんて考えてみたこともなかった。
「軽くお手本を見せてあげるわ。アンタのMNSの書、貸しなさい」
私はレジーナさんに、ロードリックさんからもらった手帳型のMNSの書を開いた状態で差し出す。
レジーナさんは私たちのアカウント、『ハニー』のホーム画面の、画像欄のところを見た。
「まずはいいねが多い順に並び替えて……あら?」
レジーナさんは、首を傾げた。
「アンタ、サプリ入れてないの? ……まさか、存在を知らない、とか言わないわよね」
レジーナさんは、古文書を眺めるみたいな目で私を見た。「そこまで初心者じゃありません」と私は抗議する。
「拡張機能が使えるようになるっていう、アレですよね? 必要ですか?」
「まあ、あった方が便利よね」
レジーナさんは、部屋に置いてある小さい棚の引き出しを開けた。中にはいくつか小箱が入っていて、その内の一つを取り出す。
「こういうの、信者が大量にくれるのよ。余ってるから一つあげるわ」
レジーナさんが箱から取り出したのは、小指くらいの大きさの細長くて透明な石だった。
レジーナさんは、それを私のMNSの書に近づける。すると、石はぼんやりと光りながら、MNSの書の中に吸い込まれていった。
「はい、完了」
さっきレジーナさんが入れた石が、『サプリ』だ。
詳しくないからよくは分からないんだけど、あの石は何か特殊なものらしくて、MNSの書に元からかかっている魔法を変化させる力があるんだって。
要するにあれを使うと、MNSでできることが増えるってことだね。
「よし、これで追加の機能が使えるようになったわね。じゃあ、あらためて画像欄の念写を、いいねが多い順に並び替えて……」
今まで撮った念写をソートする機能は、元々のMNSにはなかったものだ。レジーナさんが言ってた通り、確かにこういうこともできた方が便利かもね。
画像欄にずらっと並んだ念写を、私はじっと見た。今まで全然意識してなかったけど、こうして見返してみると、かなりの数がある。全部、私とケントさんが一緒に戦ってきた記録だった。
それを見ている内に、私は、後ここにどのくらいの念写を並べることができるんだろうと思って、複雑な気分になってくる。
「ボーッとしてないで、しっかりしなさいよ」
落ち込んでいた私を、レジーナさんが叱り飛ばす。
「ほら、なんか気が付くこと、ないの?」
「え、えっと……」
私は慌てて紙面に視線を戻した。
「上の方は……飲み物の念写が多いです」
上の方、つまり、いいねが多く付いてるもののことだ。
「後……飲み物の中でも、冷たいものの方が人気なんでしょうか。それから、『お持ち帰り用ドリンク』も」
私は、変なこと言ってないかな、と思いながら、レジーナさんの様子をチラッと盗み見た。
「まあ、そんなところね」
嬉しいことに、レジーナさんも同意見だったみたいで、否定の言葉は返ってこない。
「最近、気温が高い日が多いし、これからもますます暑くなってくるものね。お手軽に涼める冷たい飲み物が入った『お持ち帰り用ドリンク』が、そのニーズをガッチリ掴んだってことでしょ」
な、なるほど!
今まで『お持ち帰り用ドリンク』がウケた訳をそこまでしっかりと考えてこなかったけど、そう言われてみれば納得だ。今の時期的にもマッチしてたってことだったんだね。
ただ、『王道かつ新しい』っていうだけじゃなかったみたい。
「もっと確実性が欲しいなら、『冷たいお持ち帰り用ドリンク』の投稿を後何個か増やしてみて、全部のいいねが多いかどうか見るっていう手もあるけど……」
レジーナさんは、パラパラとMNSの書のページをめくってる。
「まあ、こんな感じの分析を、ちょくちょくやっていきなさい。大体の傾向も分かってくるでしょうし、ユーザーが求めてるものが見えてくるでしょ」
レジーナさんは、私にMNSの書を返してきた。




