#恋人じゃないの?(2/4)
「こ、こここ、恋人ですって!? アレとアタシが!? アンタ、言っていい冗談と、悪い冗談があるわよ! ああ、急に寒気がしてきたわ……」
レジーナさんは大げさに二の腕を擦った。
「そ、そうですか……」
レジーナさんがあんまり嫌がる顔をしていたから、私は、これが照れ隠しとかじゃないなってすぐに分かった。
「私、前にあの人から、レジーナさんに近づくなって言われたんです。だから、恋人を取られたと思って、焼きもち焼いてるのかなって」
「あの貧相なのは、アタシの追っかけみたいなもんよ。ま、ストーカーってやつ?」
レジーナさんは、身も蓋もないような言い方をした。
「ついに部屋まで押しかけてくるようになったわ。まったく、何考えてんのかしら?」
レジーナさんは相当お冠だ。これは本題に入る前に、ちょっと話題をそらしてご機嫌を取っておいた方がいいかもしれない。
「レジーナさんには、恋人とかいないんですか?」
「……ふふ。どうかしら」
一転して、レジーナさんは頬を緩めた。
……って言うかこの表情、絶対『いる』人の顔じゃん!
「どんな人なんですか?」
今度は好奇心から質問した。
「やっぱりレジーナさんの恋人ですから、素敵な人なんでしょうね」
「あったり前でしょ! もう……本当に……たまらないんだから……!」
わあ! こんなに締まりのないレジーナさんの顔、初めて見た! もしかしてこれが、『恋しちゃってハッピー』って状態? ……ちょっと待って。私、こんな間抜けな顔でエリィさんたちと話してたの……?
後、すっごく気になったけど、何が『たまらない』のかは、あえて聞かないくらいの配慮はしておこう。
「レジーナさん、たまに姿が見えなくなる時があるらしいですけど、その人と会ってるんですか?」
「ええ、まあね」
レジーナさんは、すごく楽しそうだ。
「だって、アタシたち……ふふ……ふふふふ……」
レジーナさんは両頬を押さえて、妄想の世界に入ってしまった。目の前にいる私のことを忘れられたら困るので、慌てて声をかける。
「でもさっきの男の人に、『わたくしは神のものです!』って言ってましたよね」
「別に、嘘なんかついてないわ」
レジーナさんは嫌な相手のことを思い出したせいで、バラ色の微笑みを消して、冷めた表情になった。
「アタシの恋人は『神』だもの。……で、何か用?」
……あれ? レジーナさん、意外と信心深かったりする? 恋人って、『神様』のことだったの? もしかして、神に身を捧げちゃったタイプの人なのかな?
「あの、MNSのことで相談が……」
まあ、腐っても聖女だもんね、と思いながら、私はやっと本題に入った。
「ああ、アンタたちの『お持ち帰り用ドリンク』、人気みたいね」
さすが師匠。よく知ってる。
「でも、一万いいねにはまだ足りません」
私たちは、まだ七百ちょっとしかいいねを獲得できていなかった。
「ま、地味な研鑽あるのみ、ってやつじゃない? 後は、頭を使うことね」
レジーナさんは肩をすくめる。またしても、『汝、思考せよ』みたい。
「例えば、ターゲットに人気のインフルエンサーを、たくさんフォローするとかね。そうすれば、狙ってる層に何が受け入れられているのか、よく分かるでしょう? それ用……つまり、インフルエンサーをフォローするためだけのアカウントでも作っておくと便利かもしれないわ」
「ふむふむ……」
私は、持ってきた『聖女先生のMNS講座』にメモを取る。
新しいアカウント、か。そういえば、おじい様が取引先の人にもらったまま、ホコリを被ってるMNSの書がうちにあったっけ。どうせなら、それを有効活用させてもらおうかな。




