表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/83

#私のためだけじゃないから(1/1)

 私が家に帰ると、何だか皆が忙しそうに立ち働いていた。


「どうしたの?」


 私は、近くにいた使用人に尋ねる。


「放火ですよ!」


 使用人は、『お帰りなさいませ』も言わないで、叫ぶように答えた。


「七つ星商会の建物に、火を放たれたんです!」


 まさかの発言に、私は凍りついた。廊下の向こうから足音がして、おじい様と妹のエリィさんが玄関ホールに現れる。二人は真剣な顔で話をしていた。


「それで、おじい様、これからどうするの?」


「どうするも何も、こんな悪質な嫌がらせに負けてたまるか。いいか、ずっと昔、わしの商売が順調になり始めた頃も、やはりこのように卑怯な奴らが……」

 

 私に気が付いたおじい様とエリィさんは、足を止めた。


「ふ、二人とも、無事だった……?」


 私は、声が震えるのを押さえるのがやっとだった。


「七つ星商会の建物に、火がつけられたって聞いたけど……」


「そんな大げさなものじゃない。ちょっとしたボヤ騒ぎだ。エレオノーラがたまたま煙を見つけてくれたお陰で、すぐに消火できた」


 おじい様が、ゆっくりとかぶりを振った。


 エリィさんは、おじい様曰く商売の才能があるらしくて、よく七つ星商会の事業を手伝っていた。今日もエリィさんは、おじい様と一緒に、七つ星商会に行ってたみたいだ。


「それってやっぱり……私のせい、だよね……」


 大した被害もなさそうだと分かってほっとしたけど、罪悪感が残る。


「この家に嫌がらせしてきた人たちが、今度は七つ星商会に……」

「卑劣な奴らもいたものだ」


 おじい様が鼻の穴を膨らませる。


「これ、見て」


 エリィさんが、自分のMNSの書を開いた。


『悪徳商人の方々は、煉獄れんごくの業火にまれて清められるべきですわ!』


 もうコメントの口調を見ただけで分かった。これは悪役令嬢Rの投稿だ。念写の中では、物置っぽい建物が火に包まれている。


 私は、まさか放火したのって、悪役令嬢Rだったの!? と少しだけ体をこわばらせた。でもよく見たら、これを写した場所は、七つ星商会の敷地の中じゃなさそうだった。


「この念写で火がつけられてるのは、七つ星商会のライバルみたいなお店なの」


 エリィさんは、これ以上は見たくないとでも言いたげに、MNSの書を閉じた。


「これ……悪役令嬢Rが建物を燃やしたってことだよね」

「多分ね。で、リタ姉様は悪役令嬢Rって思われてるわけでしょ?」


 私は、何となくエリィさんの言いたいことが理解できた。


「七つ星商会の建物に火をつけたのは、そのライバル店の人たちなの?」


「そうみたい。あのお店の制服を着た人が、犯行現場から逃げていくところを通行人が目撃してたから、間違いないわ」


「あいつら、この何とか令嬢の放火が、七つ星商会の工作だと誤解したようでな」


 おじい様は機嫌が悪そうに、杖で床をコツコツと叩いた。


「それで、報復に来たというわけだ。バカらしいことこの上ないわ!」


 つまり、悪役令嬢Rである私が、おじい様の商売敵を潰そうとして、ライバル店の物置に火をつけたって判断したんだね。


 ライバル店の人たちは、それが許せなくて、やられたらやり返せって感じで、今度は逆に七つ星商会を襲おうとしたわけだ。


「リタ姉様、そんな顔しないで」


 全部、私が悪役令嬢Rだって誤解を受けてるせいで起こったことだと思ってしまったら、いつの間にか暗い顔になってたみたい。エリィさんが、気遣うように声をかけてきた。


「だって、リタ姉様が一万いいねを取って、ロードリックさんをやり込めちゃえば、何もかも解決するんですもの!」


「その通りだ。例のMVP・・・とやらで、小僧を懲らしめてやれ!」


 おじい様もエリィさんも、私なら一万いいねを取れるって信じてるみたいだった。


 ……やっぱり、この状況を何とかできるのは、全ての元凶のロードリックさんしかいないのかな。


 おじい様もエリィさんも、私が悪役令嬢Rじゃないって信じてくれてる。でも、どれだけ二人が私の無実を訴えたって、きっと無駄だ。身内だから庇ってるだけだと思われるに決まってる。


 私が頼れる人なんて、結局はあんまりいないんだ。それに、下手に私を擁護したら、その人まで迷惑を被っちゃうかもしれないって思うと、誰彼ともなく、『味方になってくれ』なんて気軽に言えなかった。


 そう考えたら、レジーナさんやケントさんは、本当に良くしてくれてる方だと思う。


 レジーナさんは、最初こそまったく相手にしてくれなかったけど、色々あって私の師匠になってくれたし、ケントさんは……。


 ケントさんは、最初に私を助けてくれた。それで、今もずっと一緒にいる。


 でも、それがこれからも続くかって言うと……。


「そうだよね、私、頑張らないと」


 私は空元気を出した。


 もしかして、このロードリックさんとの勝負、もう勝ち負けが決まっちゃったんじゃないのかな。


 たとえ私が一万いいねを取ったって、試合に勝って勝負に負けた気がするもん。


 でも、『勝負』に負けるのが分かってたって、やらないといけないんだ。


 だってこれは、私のためだけの一万いいねじゃないんだから。私のせいで迷惑してる、周りの人たちを助けないといけない。そのために、私は目標を達成する必要がある。


「私、ちょっと出かけてくるね」


 さっきレジーナさんのことを思い出したら、またあの人に会わないといけないような気がしてきた。


 私は、「頑張ってきてね!」という声を聞きながら、家を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 悪役令嬢Rは犯罪の証拠をがっつり上げているのか……! 捕まらないのかな……? 令嬢を名前につけているだけあって、貴族のマークがついてたりして、貴族相手はなかなか調べられなかったりするの…
[良い点] うあ゛ぁあ ・゜・(´Д⊂ヽ・゜・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ こんなバカな話あってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! リタが、リタが何したっていうのよぉぉぉぉぉ! この子…
2021/07/31 22:35 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ