#根性で乗り切る(1/2)
「それ、何?」
いいねが伸び悩んでいた僕とリタさんは、はちみつキッチンの定休日に、レジーナさんのところへ助言を求めて行くことにした。
待ち合わせ場所で合流した僕を見て、リタさんが不思議そうに首を傾げている。リタさんは、僕が抱えている箱に興味を持ったみたいだった。
「秘密兵器です!」
僕は自信満々に答えた。実は今回の訪問のために、ちょっとした作戦を練ってきたんだ。
「何が入ってるの?」
「お店で出してるはちみつケーキです。レジーナさんへの手土産ですね」
「『秘密兵器』が、はちみつケーキ? ……な、なるほど! 美味しいものを出されたら、何でも言うこと聞いちゃいそうになるもんね! レジーナさんから助言を引き出しやすくするための策だね!」
リタさんはふんふんと頷いている。いや、そんなに食い意地が張ってるのはリタさんだけだと思うよ。
でも、ニコニコ笑ってるリタさんは可愛い。後で、ケーキをおごってあげよう。
「よし、早速出発だね!」
リタさんが元気よく宣言する。僕も「はい」と言って頷いた。
「あら、気が利くじゃない」
僕の予想通り、ケーキを差し出すと、レジーナさんはとっても喜んでくれた。
「アタシ、甘い物好きなの」
やっぱり女の人の機嫌を取るには、これに限る。姉さんとケンカした時でも、お皿いっぱいに色んなケーキを焼いてあげると、すぐに許してくれるからね。甘い物は正義だ。
僕が切り分けたケーキを、レジーナさんはご機嫌で食べていた。リタさんの目も、心なしか輝いてる。……つまみ食いはダメだよ?
「後は、飲み物があれば完璧なんだけど……って、あら? それも準備してあったの? 用意がいいのね」
レジーナさんの私室に行く前に、修道院の厨房を借りて、紅茶を入れておいたからね。
「このケーキ、カフェのメニューって言ったかしら? っていうことは、この紅茶の茶葉も、お店で使ってるものなの?」
「そうです」
そして、冗談っぽく聞こえるように続けた。
「一番人気は、はちみつラテですけどね。でもこれは、お店に来て飲んでみてください」
「あらあら、商売上手ですこと」
唇の端をなめながら、レジーナさんが笑う。よし、だいぶ機嫌もいいぞ!
「今ちょうど、午後のお茶の時間ですよね」
僕は、何気ないふうを装って切り出した。
「レジーナさん。これ、美味しかったのなら、MNSに載せてみたりしませんか?」
「あら、それが本音?」
……あっ、あっさりかわされた。
「アタシ、前に言わなかった? 過度には甘やかさないわよって」
作戦は失敗だ。横でリタさんが、『あの美味しいはちみつケーキに買収されないなんて、この人、やる……!』って顔をしていた。
「アンタたち、最近いいねが増えないからって、アタシの力を利用しようとしたんでしょう?」
レジーナさんは、おしゃれなブックカバーがついた自分のMNSの書を開いて、僕たちのアカウントを見ていた。
あっ、一応フォローはしてくれてるんだ。って言っても、非公開フォローみたいだったけど。他の人に、僕たちと関わってるのを知られないため……なのかな?
「でもレジーナさん、前に言ってたじゃないですか! インフルエンサーが投稿に反応してくれれば、すごくいいねがつくって!」
もうこっちの魂胆は分かってしまったみたいだから、僕は思っていることを隠さずに話すことにした。
「僕、レジーナさんの実力を見込んで頼んでるんですよ! 八十万のフォロワーがいるレジーナさんの実力を!」
「悪いけど、アタシはそんなに安くないのよ」
僕はレジーナさんの自尊心をくすぐろうとしたけど、これも上手くいかなかった。レジーナさんはフォークをクルクルと回しながら、こっちを睨んでいる。




