#ギャフンと言わせてやるのだ!(1/1)
コースターは、それからしばらくして完成した。これで、『#カフェ巡りの戦利品コレクション』に加えてもらう、『戦利品』がはちみつキッチンにも誕生したわけだ。
でも、悲しいことに、期待したような効果はなかった。私たちがMNSに上げる投稿のいいねは相変わらず、百から二百あたりを行ったり来たりしている。お客さんの数も、そんなに増えてない。
やっぱりあれかな。レジーナさんが言ってた、『MNSで数字をとるためには、王道の中に新しさを加えないといけない』を破っちゃったからかな。
コースターくらいなら、他のお店の『戦利品』にもなってるもんね。『新しさ』がなかったのかも。
私とケントさんは、お店の休憩時間とか、営業が終わった後に、もっといい『戦利品』はないか? って何度も相談した。
でも、名案って、そう簡単には浮かんでこないんだよね。何かきっかけがあれば、ひらめきが生まれそうな気もするんだけど、今のところ、良さそうなアイデアが降ってくる気配はない。
だから私たちは、レジーナさんに相談する方がいいかなって結論を出した。もはやレジーナさんは、私とケントさんにとっては、頼れる師匠みたいな存在だったんだ。
そんな時、私はおじい様に呼び出された。
「リーゼロッタ! どういうつもりだ!」
おじい様は、書斎中に響くような大声を出した。なんか、天井からホコリが落ちてきた気がする。
「お前、うちの商会の名前を使って、勝手なことをしただろう!?」
「勝手なこと?」
「とぼけるな! うちが出資した商店の奴らに、下町の店の改装をタダで手伝わせたこと、わしが知らないとでも思ったのか! イミールから、『この間はお世話になりました』と連絡があったんだぞ!」
「おじい様、私に非があるような言い方はやめてください」
おじい様が何のことを言ってるのか分かった私は反論した。
「あれは、商店の人たちが勝手に、『グローサベアー家のお嬢さんからお金は取れない』って言っただけなんです」
「何だと?」
おじい様は眉をひそめた。
「まったく、あいつらは……。では、この件はいい。それで? お前は下町の店なんぞに一体何をしに行っていたんだ」
「おじい様、私、前に元婚約者のロードリックさんから、勝負を挑まれたって言いましたよね?」
勝負っていうのは、もちろんMNSで一万いいねを取ることだ。
「私がお店へ行ったのは、その勝負に勝つためです。私の協力者は平民で、街でお店をやっているんです」
あっ、そうだ! せっかくの機会だから、前に妹のエリィさんから教えてもらった、使用人たちの間の良からぬ噂についても、おじい様の耳に入る前に訂正しておかないと。
「その協力者の男の人は、作戦会議のためによくうちにも来ますけど、誤解しないでくださいね。私を騙そうとしているとか、そんなのじゃないですから」
「はあ、なるほどな」
私の話の内容が、思ってもみなかったことだったからなのか、おじい様は難しい顔になっている。
でも、私のしたことを責めてる雰囲気じゃなかった。
「平民から協力者を募るとは、さすがはわしの孫娘、といったところか。わしも若い頃、『平民と一緒に事業をしている』と言ったら、周りの貴族連中にバカにされたものだ。それが今はどうだ? わしを笑ったその貴族どもが、わしの七つ星商会に融資を打診してくる始末だ!」
愉快愉快、とおじい様は笑った。
「身分がどうこうなどという意見はもう古い! よし行け、リーゼロッタ! わしの孫よ! その平民と一緒に、アームストロング家の小僧をギャフンと言わせてやるのだ! 若い頃のわしのようにな!」
さすがおじい様。反対されるどころか、逆に背中を押されてしまうなんて。別にケントさんのこと、隠してたわけじゃないけど、ちょっと肩の荷が下りた気分。
でも、もしケントさんが私の『協力者』以上の関係になった時は……。
その時もおじい様は、こうやって笑って許してくれるのかな?
私はふと、そんなふうに思ってしまった。けど、こんなことを考えているのが恥ずかしくなってきて、すぐに頭を振って、その考えを打ち消す。
『協力者以上の関係』なんて、一人で先走りすぎだ。とにかく今は、おじい様の許可が降りたことを、素直に喜んでおこうと思った。




