表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/83

#カフェ巡りの戦利品コレクション(2/2) 

「つまり、さっきの人の投稿は、『はちみつキッチンには、お持ち帰り可能な小物がなくてガッカリ』みたいな意味だったんですね」


「よし、じゃあ作ろう」


 私は即決した。善は急げってやつだ。


「これを……こうして……」


 私は、持ち歩いていた『聖女先生のMNS講座』と書かれたノートの白紙のページを破る。ハサミを貸してもらって、切り絵みたいに紙を色んな形にカットした。


「『はちみつキッチン』だし、ハチの形にしてみたよ。こんなコースターはどう?」


「リタさんって、僕が予想していたより、ずっと器用ですね」


 ミツバチの形に切り取られた紙を、ケントさんは感心して見つめていた。何だか照れる。


「でも、ちょっと造形が本格的すぎませんか? これがドリンクの下にひいてあったら……」


「……何だか気持ち悪いかもね」


 私はハサミを動かす。


 うーん。可愛くデフォルメするのって結構難しいんだね。ほら、私が作る動物の作品って、リアル志向だから……。


 そういえば前にクマの刺繍をつけたハンカチをMNSに載せた時、元婚約者のロードリックさんから、『これと森で出会ったら、死を覚悟する必要があるな』ってコメントが来たっけ。


 私的には、クマの野性味を上手く出せた自信作だったんだけどなあ。


「ハチ……は、やめておいた方がいいのかな?」


 私は、別の方向からアプローチすることにした。


「ミツバチだし、お花……?」

「花型のコースターですか。可愛いですね」


 手早く紙を花の形に切り取ると、ケントさんが褒めてくれた。私はちょっといい気になる。


「よし、端っこの方に、ミツバチの絵も描いちゃおう!」


 私はペンを動かし……ダメだ。また『リアルミツバチ』になっちゃった。


「僕の弟、結構絵が上手いんですよ」


 ケントさんも苦笑いしてる。


「後で頼んで描いてもらいましょう」


「そうだね。終わったら、『こんな感じのコースターを作ってください』って職人さんに言おうよ」


 お店の改装工事をした時みたいに、七つ星商会を知ってる人なら、破格の値段で引き受けてくれるかも。


 ……いや、もしかしたら無料で作ってくれるかな? 今回限りのことじゃないから、それはちょっと申し訳ないけど。


「これをお客さんたちがMNSに『戦利品』として載せてくれたら、はちみつキッチンに来てくれる人も増えるかもしれませんね。それで、口コミが広まって、僕たちの投稿にも、いいねがつく!」


 ケントさんは弟さんに絵を描いてもらおうと思ったのか、早速紙を持って立ち上がった。でも私は、そのコースターには、まだ改良の余地があるような気がしていた。


「ねえ、ケントさん。さっき私、『MNSで店名をコメントする人ってあんまりいない』って言ったじゃん」


 私は、コースター化される予定のものをじっと見た。


「そのコースターだけ見ても、どこのお店のか分からないよね?」


 私はもう一度ペンを手に取る。


「だからさ、店名と簡単な地図もそこに入れておこうよ。これなら、投稿者が店名をコメントしてくれなくても、念写を見た人が、すぐに『はちみつキッチンのだ!』って分かるんじゃないかな?」


「なるほど、言われてみれば……」


 ケントさんも『#カフェ巡りの戦利品コレクション』で検索して、上げられている『戦利品』たちに、店名や住所が書いてあることに気が付いたみたいだ。


「ケントー! そろそろ手伝ってー!」


 ホールからお母様の声がする。


「後は私に任せておいて」

「じゃあ、お願いします」


 ケントさんは、花型コースターの原案の紙を差し出してきた。私はそれを受け取ろうとする。


 その時、ちょっとだけケントさんの指に触ってしまった。


「あっ……」


 どちらからともなく、声が漏れた。紙が宙を舞って、床に落ちる。


「その……ご、ごめんなさい!」


 ケントさんは急ぎ足でその場を離れた。右手を……さっき私が触っちゃった方の手を押さえている。


 ごめんなさいじゃないよ! って私はもう少しで言いそうになったけど、声が出なかった。体が何だか汗ばむのを感じる。今日も気温が高いから……じゃないよね。


 私も、ケントさんに当たってしまった指先を握りしめて、テーブルの上に突っ伏した。


 ……ああ、もう! こんな些細なことで狼狽えるなんて! せっかく一緒にいるだけなら、どうにか平常心を保てるようになってきた頃なのに!


 私は胸をなでさすりながら、コースターの原案を持ってバックヤードから出た。


 さあ、弟さんにミツバチの絵を描いてもらった後は、職人さんたちのところへ行かないと!


 動揺した気分を鎮めるには、忙しく立ち働くのが一番かもしれないと思うことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 『これと森で出会ったら、死を覚悟する必要があるな』 結構手放しで誉められてるなと思った私は、何かがずれているのかもしれない……。 リアルな造形が描いたり作れたりってすごい。観察力もあるの…
[良い点] リアルに描けるんだ……リタちゃん そうゆう特技があったとわ。 [気になる点] 弟君がまさかここで活躍! てゆーかヲイ!諸悪の根源! 言い方ってもんがあるだろヽ(`Д´)ノプンプンとゲキオ…
2021/07/22 17:41 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ