#カフェ巡りの戦利品コレクション(1/2)
「いらっしゃいませー」
はちみつキッチン、オープン初日。
店内には、大勢、とまでは言えないけど、そこそこのお客さんがいた。
初日から大盛況! ……なんて想像をしてた私は、少しだけがっかりしちゃった。
でも、長いこと閑古鳥の鳴き声ばかり聞いていたケントさんのお父様たちにとっては、感激するくらい素晴らしい客数だったみたい。皆の接客する声は、元気で明るかった。
私はその様子を、頭からスカーフを被って顔を隠し、バックヤードからこっそりと覗いていた。
狙い通り、お客さんは、若い女の人が多そうだ。
中には「MNS見て来ました」って言ってる子もいて、私はちょっと嬉しかった。この人が貴重な『一いいね』をつけてくれたかもしれないと思うと、何だか拝みたい気分になる。
私はお母様に、あのお客さんに、デザートのサービスをしてあげてほしいと頼んでおいた。
あっ、あの人、念写を撮ってる! もしかして、MNSに載せてくれるのかな? 宣伝にもなるし、ありがとう!
ホールでは、ケントさんもお客さんから注文を聞いたり、商品を持って行ったりしていた。さすが、慣れた身のこなしだ。エプロン姿も様になっていて、ちょっと見惚れちゃった。
午後になって、お客さんがちょうど誰もいなくなった時、ケントさんは遅めの昼食をとるために裏へ下がってくる。
お父様の作ってくれたまかない料理を食べながら、私はケントさんと会話をした。
「お客さんの会話が聞こえてきたんですけど、リタさんの作った壁掛け、可愛いって言ってましたよ」
「本当?」
「はい。お店の雰囲気も落ち着くって言ってる人もいました」
「良かった。お店のコンセプト、ちゃんと表現できてたんだね」
私はにっこり笑った。でも、念には念を入れることにする。
食事が終わった後で、私はMNSの書を起動した。食べながらMNSをする人もいるけど、ちょっとお行儀が悪いからね。そんなことしたら、おじい様も怒るし。
「『はちみつキッチン』、と……」
私は検索をかける。
……あれ、出てこない。
「……誰も載せてる人、いないのかな?」
「そんなこと……あっ、ほら! 検索ワードを変えたら出てきましたよ!」
同じくMNSの書を開いていたケントさんが、すかさずフォローを入れてくれた。
ケントさんは、『#帝都のカフェ巡りツアー』で、ハッシュタグ検索したみたいだった。私も真似してみると……本当だ! 数は少ないけど、はちみつキッチンの念写が出てきた!
「念写をMNSに載せる人って、あんまり店名は入れないのかな?」
私は、投稿を一つ一つ見ていった。良さげな念写には、いいねもつけておく。
「皆が念写と一緒につけてるメッセージ、『新しいカフェに行ってきました!』とか、『はちみつのケーキ、美味しかった!』とかだし……」
確かに念写を載せてくれるのはありがたい。でも、どこのお店なのか分かんなかったら、あんまり宣伝にはならないよね……。
「リタさん、これって、どういう意味でしょう?」
MNSで、はちみつキッチンに関する投稿を見ていたケントさんが、首を傾げた。
「うん? どれどれ……?」
『今日は一日中カフェ巡りすることに決めてて、もう三軒目! でも、ここって戦利品はないみたいだから、ちょっと残念かも』
食べ歩きが好きな女の人のアカウントみたいだった。
「この『戦利品』っていうの、何でしょう?」
ケントさんが尋ねてくる。
「うーん……」
私にもよく分からない。でも、ヒントになりそうなものが、この人の投稿のハッシュタグ欄にあった。
『#カフェ巡りの戦利品コレクション』だ。
私はそのハッシュタグをクリックしてみた。
「これが『戦利品』?」
出てきたのは、ドリンクについてるコースターとか、料理に乗ってる飾り用のプレートとかだった。投稿した人が立ち寄ったお店のものみたい。
『コレクション』ってついてるだけあって、色んな種類の『戦利品』を念写してる人もいた。
「つまり、利用したお店のちょっとした小物を持ち帰ったものが、『戦利品』ってこと?」
「お食事した記念みたいなものなんでしょうね」
謎が解けたケントさんが頷いている。
そういえば、私がカフェについて色々と検索をしてる時も、お店の小物を撮った念写が混じってたっけ。
特に気にしたことはなかったけど、こういうのを集めてる人もいるんだね。いわゆる『収集癖』ってやつなのかも。




