#オープン前夜(1/1)
「完成、おめでとうございます!」
『めしや』あらため『はちみつキッチン』の店内に、歓声が響く。
工事を開始した日からしばらく経って、『めしや』は、『はちみつキッチン』に生まれ変わった。
『落ち着いた隠れ家』を目指したカフェの店内は、茶色やクリーム色を基調としていて、温かみのある雰囲気だ。
小ぶりなテーブルは丸く、ロッキングチェアみたいな形の椅子にはふかふかのクッションが敷かれていて、座り心地がいい。
大人数で来店するお客さんよりも、一人とか、少人数で過ごす時間をゆっくりと楽しみたい人向けの空間に仕上がった。
それでも地味な印象にならないように、壁にはツタを這わせて、色々な場所にドライフラワーが生けてある。私の作った壁掛けも、カウンターの傍に飾ってもらった。
「皆、お疲れさん! 今日はじゃんじゃん飲んでくれ!」
店内では、明日からのオープンの前祝いに、今まで工事に関わった人たちが皆呼ばれて、ちょっとしたパーティーが開かれていた。
ケントさんのお父様とお母様が厨房に立ち、腕を振るう。お姉様とケントさんがそれをテーブルに並べると、あちこちから喜びの声が上がった。
さすがに今日はケントさんの弟さんも参加してるけど、今までほとんど工事を手伝わなかったことをお父様に怒られてて、ちょっと不憫な感じだ。
「ついに明日ですね」
私が目をキラキラさせながら食べ物をお皿に山盛りに取り分けてると、ケントさんが話しかけてきた。
「うん。これからも頑張ろうね!」
今までのいいねは、最高で百くらいだった。『カフェを作る過程を見せる』っていうのは確かに新しい試みだったけど、一万いいねには全然届かなかったんだ。
だけど、レジーナさん曰く、「これからでしょ、勝負は」とのことなので、私たちは全然落ち込んでなかった。
レジーナさんは、信者さんの足が途絶えた教会に、MNSの力で人を大勢呼び戻したすごいインフルエンサーだ。でも、そんなバズる投稿をするまでには、何回も失敗したらしい。それでも最後には、目標を達成したんだ。
だったら私たちだって、これからの可能性を信じてみてもいいんじゃないかなって気になってくる。
「これ、美味しいね」
今日はたくさんのお料理が振る舞われてるけど、私は、お父様の自慢の品らしい、はちみつケーキが一番気に入った。お父様、豪快な見た目と性格だけど、お菓子とかも作れるみたい。
「それ、うちの看板メニューにするつもりですからね」
ケントさんも嬉しそうだ。
「それで、こっちが看板ドリンクです」
ケントさんがカップに飲み物を注いでくれた。冷たいはちみつラテだ! いい匂い!
最近、ますます気温が上がってきたから、冷たい飲み物は嬉しいな。きっとお客さんも喜んでくれると思う。
「ねえ、ケントさん。明日からのお店にも、私、行っていい? もちろん、正体はバレないように、顔は隠すから」
せっかく軌道に乗り出したリニューアルオープンなのに、『悪役令嬢R』がそこに登場したせいで、何もかも台無しにするわけにはいかない。
でも、私は自分のしたことが、どういう結果になるのかこの目で見てみたかったんだ。
「もちろんですよ」
ケントさんは頷いてくれた。
「ここまで来られたのは、リタさんのお陰なんですから。なんて言うか……戦友って感じです」
「戦友? 何それ?」
私は笑い声を上げる。
けど、確かにそうかも。
私とケントさんは戦友。同じ目的のために、一緒に戦う同志だ。
でも。
でも、いつか、それ以上になる日が来るのかな。一緒に戦った仲間以上の関係。もっと近くて、親密で……。
「リーゼロッタ様! 記念の念写、撮ってください!」
商店の人たちに声をかけられる。私とケントさんは、皆の方へ向かった。
『明日、オープンします!』
そんなコメントと一緒に載せた念写には、今までの投稿の中で最高の、二百いいねがついた。
でも、私が一番嬉しかったのは、MNSには上げなかった、もう一枚の念写の方だ。
だって、そっちも集合念写だったけど、私とケントさんが、隣同士で写ってたからね。




