#離れたいとは思わない(1/2)
それからも、改装工事は順調に進んでいった。
改装って言っても、そこまで大々的に作り直すわけじゃないから、まだ工事を始めてそんなに日は経ってないけど、もう半分くらいは終わってる。
って言うのも、わざとボロボロになった部分を残してるからだ。
「よし、ここから生やすぞー」
植物栽培用の魔導書を持った職人さんたちが、外壁に向かって魔法をかけている。穴の空いた場所から、緑の芽がにょきにょきと伸びてきた。
それだけじゃなくて、お店の周りにも大きな木が植えてある。そのせいで、お店は外からは若干見えづらくなってるけど……狙い通りだ。
パシャ。
私は早速念写を何枚か撮った。
『今日は、たくさん木を生やしました。隠れ家っぽい雰囲気に近づいてきたかな?』
テキストメッセージとハッシュタグを添えて、MNSに投稿。私、結構念写の腕前が上がったかも。
やっぱり、『カフェ作り』っていうのは、MNSユーザーにとっては、結構珍しい要素だったみたい。私たちの投稿につくいいねも、確実に増えていた。
最初の投稿は三十二いいねだったけど、昨日投稿した念写には、五十以上もいいねがついていた。
『段々と完成形が見えてきましたね!』っていうコメントももらったし、最初の方から見守ってくれてる人もいるみたいだった。
それで、そのリニューアルオープンするカフェに、私たちは『隠れ家』の要素を入れることにしたんだ。
元々この辺りは、人通りも少なくて、あんまり騒がしくないところだった。それがお客さんの減少に繋がってたわけなんだけど、今度はそれを逆手に取ろう、っていう作戦だ。
つまり、あんまり人のいない、落ち着いた雰囲気の知る人ぞ知るカフェ。ゆったりのんびりした時間を過ごすには、ぴったりな場所。そういうところを目指そうとしてるわけだね。
そのためには、真新しくてピッカピカ! な外見よりも、ちょっと趣があるっていうか、どこか古びてた方がいい。もちろんボロボロはダメだけど、適度に寂れた感を残すのは大切だ。
それから店内も、落ち着いた雰囲気を重視しないと。
「リタさん、何作ってるんですか?」
私が荷馬車の空いたスペースに腰掛けて針仕事をしていると、ケントさんが話しかけてきた。
……近い。
ケントさんへの恋心を自覚してから、一緒にいると今までよりも彼のことを意識してしまうようになった。
声をかけられただけ、傍に来ただけなのにドキドキする。
私、今までどうやって平静さを保ってたの? って不思議になっちゃう。
「ペナントっていうかタペストリーっていうか、そんな感じの壁掛けかな。インテリアにどうかと思って」
声、上ずってないよね。私はケントさんの顔をチラッと見た。
……優しい色合いのオレンジ。ケントさんの目、吸い込まれそう。
ほんの一瞬、視線を向けるだけのつもりだった。でも、気が付いたらじっと見つめてたみたい。ケントさんと目が合って、私、思わず顔を伏せた。
「リ、リタさん、手先が器用ですもんね」
声が上ずってるのは、ケントさんの方じゃない? ……ううん、きっと気のせいだ。恋が見せた幻だ。
「何て言うか、その……店内が……綺麗に……なるかも、です」
「……うん」
私、もうちょっと気の利いた答えを返せないの? さっきからずっと俯きっぱなしで、ケントさん、不審に思ってないかな?




