#いつか女王に口づけを(1/1)
「ふーん。カフェ、か」
物陰から様子をうかがっていた俺は、オンボロの建物の中から出てきた金髪の娘のことをじっと見ていた。
今日の作業は、もう終わりなんだろうか。
リタとかいう小娘は、止めておいた馬車に乗って、自分の屋敷に帰るようだった。この工事中の店は、もう一人の小僧……ケントだったか? その子の家らしいので、彼はここに残るみたいだ。
初めは、何であんなよく分からない二人組とレジーナ様がしょっちゅう会っているのか理解ができなかった。けれど、あの三人が話している内容を扉の向こうから聞いている内に、大体の事情がようやく分かってきた。
どうもあの二人は、小娘の汚名を雪ごうとしていて、そのために、一万いいねを取る必要があるらしい。それで、レジーナ様に、いいね獲得のためのアドバイザーになってもらったようなのだ。
「俺でも滅多にお話の時間が取れないというのに、あんな訳の分からない奴らがレジーナ様と……」
俺は歯を食いしばった。
あの二人は、少し調子に乗っているんじゃないだろうか。俺の女王。尊い聖女様。レジーナ様はお優しいから、あの二人のいいね獲得の計画に、仕方なく付き合ってさしあげているだけだ。
それなのにあの二人は図に乗って、レジーナ様が自分たちを特別視しているとうぬぼれている。
いつかその勘違いを正してやる必要がある。この間、ちょっと脅しただけですぐに尻尾を巻いて逃げ帰ってしまった二人だ。その気になれば、簡単に潰すことができるだろう。俺にはよく分かっていた。
「たった一言でいい。レジーナ様がやれとおっしゃれば、今すぐにでも……」
レジーナ様は神に身を捧げた神聖なお方。だが、いつかはきっと、俺のこの想いを受け入れてくださるに違いない。
俺があの方をどれほど愛しているのか。そして、愛されないばかりにどれほど苦しんでいるのかをご存じになったら、もう感激で俺以外のことなど考えられなくなってしまうだろう。
いつかあの方の白い肌に接吻できる日が来るのかと思うと、体の奥から歓喜がわき上がってくるようだ。
そのためには、やはりあのバカどもをレジーナ様の前から消さなければならない。俺の功績を知れば、レジーナ様だって、きっと俺を愛してくださるに違いないのだから。
ああ、でも、今はまだ我慢だ。もっともっとあの二人が有名になって、目標に手が届きかけて……。
蹴落とすならその時がいい。高いところから落ちた方が、傷も大きくなるのだから。
俺は、懐に入れた小さな『お守り』を服の上から握りしめる。レジーナ様が、俺に密かにプレゼントしてくださったものだ。
その時以来、俺はこの大切な『お守り』を肌身離さず持ち歩くようになっていた。
これは、レジーナ様も本心では俺のことを慕ってくださっているという、動かぬ証拠でもあるのだ。それを忘れないためにも、常に手の届くところにしまっておく必要があった。
時が来れば、俺は必ずあなたのために行動を起こします。だから、もう少し待っていてください、俺のレジーナ様。
俺は心の中で最愛の女王の名を呼びながら、帰路についた。




