#皆でカフェ作り(1/2)
「念写? いいぜ。バンバン撮んな」
運良く、まだ改装工事は始まっていなかった。
私たちが撮影をしてもいいか尋ねると、店主さん、つまりケントさんのお父様は豪快に笑って許してくれた。
お店の入り口には、お父様の他に、ケントさんのお母様とお姉様もいる。
ケントさんの話だと、まだ弟さんが一人いるらしいんだけど、どこかへ遊びに行っちゃったんだって。なんて言うか、真面目に働くよりブラブラしてる方が好きな性格みたい。
弟さんはともかく、この改装工事は、家族総出で行うらしい。ただでさえ一人欠員が出てる状態なのに、ケントさん、今日も私のところに来てくれてたの? 本当に優しい人だ。さすがは天使。
それにしても、ケントさんって、お父様にもお母様にも似てないんだよね。顔立ちじゃなくて性格が。
いや、もしかしたらケントさんも、レジーナさんみたいに猫被ってる感じ? 影では、「ガッハッハ!」とか大きく口を開けて笑ってたりするのかな?
「こちら、ターナーさんのお宅でお間違いないですか?」
私が変な妄想に浸っていると、何台かの荷馬車がやって来た。初老の御者さんが降りてきて、お父様に話しかけている。
馬車に乗ってるのは、木材とかペンキとかだ。なるほど、これを使って、お店を改装していくんだね。
「はい、では受領書を……あ、あなたは、グローサベアー家のリーゼロッタ様!?」
荷馬車を観察してた私に、御者さんが驚いた顔で声をかけてきた。
「え、ええと……?」
「以前に肖像画を拝見させていただいたことがございまして。お祖父様には、いつもお世話になっております。わたくし、イミール商店の店長、イミールでございます」
「イミールさんって、あなたが?」
私は目をパチパチした。
「リタさん、知り合いですか?」
ケントさんが尋ねてくる。
「前に、私の祖父は昔から平民の人たちと一緒に色んな事業をやってたって言ったでしょ? その内の一人だよ。って言っても、会ったことはないんだけどね。祖父から、話を聞いただけで」
「平民と一緒に? それは初耳です」
ケントさんが驚いていると、イミールさんは恭しく頭を下げた。
「お祖父様のお陰で、わたくしも、こうして小さいながらも帝都に自分の店を構えることができました。感謝してもしきれません」
私、この人に話しかけられた時、てっきり「悪役令嬢Rめ!」って罵倒されるのかと思ってたけど、そうじゃなかったみたい。一安心だ。
「ところでリーゼロッタ様、このようなうらぶれた場所で、何をなさっておいででしょうか?」
「お店の改装を見学しにきたの」
お父様の「悪かったな、みすぼらしくてよ」という声を聞きながら、私は自分のMNSの書を取り出した。
「それで、念写でも撮ろうかなって」
「なんと! こちらはリーゼロッタ様のお知り合いの方々でしたか!」
イミールさんは飛び上がって、たった今お父様から受け取ったばかりのお金を突き返した。
「グローサベアー家に縁のある方からお金をいただくなど、できません! 今回の資材は、無料で提供させていただきます!」
「む、無料!?」
さすがのお父様も、これには驚いたみたいだ。
「そいつはいけねえよ、イミールさん。あんただって商売だろ。タダ働きさせるなんざ……」
「いいえ、いけません! わたくしはグローサベアー家に、大恩がある身なのです!」
お父様とイミールさんは、お金をあっちへ渡し、こっちへ渡しして、言い争った。
そうしている内に、向こうから別の声がする。
「おい、何だ、この馬車の群れは。こっちはターナー家に、注文された商品を渡さないといけないんだよ!」
なんだか怖そうな若い男の人だ。でもその人も、私を見た途端に素っ頓狂な声を上げた。
「リーゼロッタ様! リーゼロッタ様でしょう! 肖像画にそっくりだ! あなたのじいさまには、俺、世話になったんです! え? 金? んなもん、受け取れるわけないでしょう!」
「何の騒ぎだ、まったく。この辺りの道は狭いんだぞ。こっちはターナー家ってところに……あっ、リーゼロッタ様ですか!? 肖像画のまんまだなあ。おじいさんには色々と助けてもらって。改装工事ですか? ……この人数で? ……おい、野郎ども! 親方に連絡して、若いのと職人を何人か連れて来い! グローサベアー家のお嬢さんがお困りだ!」
ちょっと待って! おじい様、どんだけ皆に私の肖像画、見せびらかしてんの!?
って言うか、なんでこの人たち、揃いも揃っておじい様の知り合いなわけ!? おじい様って、そんなに顔が広かったの!?
「おかしな偶然もあるもんだねえ」
お母様も驚いていた。
「あたしらこの人たちを、七つ星商会ってところで紹介してもらったんだけどね」
それ、うちのおじい様が会長やってるお店じゃん! そうだった。七つ星商会って、斡旋業もしてたんだった。
それに、七つ星商会が使ってる建物の玄関ホールには、グローサベアー家の人たち――つまり私の家族の肖像画も飾ってあるってことも思い出した。当然、そこには私の姿もある。
ちょっとした謎は解けたけど、その頃には皆、資材をお店の傍に運んだり、頼まれてもいないのに道の掃き掃除をしたりと、思い思いの行動に移ってしまっている。
もうこれ、止めるのは無理じゃない?
お父様もイミールさんとのお金の投げ渡し合戦に負けて、地面に座り込んでいた。用意のいいお姉様が、「皆さん、お疲れさまでーす」と言って、トレーに載せた飲み物を持ってくる。
「リタさん……」
ケントさんが何か言いたげに、私のMNSの書を見ている。
……そうだね。予想外のことは起きたけど、私は私の目的を達成しないと。
パシャ。
パシャ。
小気味のいいシャッター音と、商店の人たちのかけ声が辺りに響く。
普段の人通りの少なさや静けさからは考えられないほど、辺りは段々と賑やかになっていった。




