#朝は四本、昼は二本、夜は三本(2/2)
「レジーナさん、分かりましたよ! 『同じだけど、違うもの』っていうのはつまり、『皆が知っているものだけど、それとは別に新しい要素もある』ってことですね!」
レジーナさんと面会の約束を取り付けた私たちは、真っ先に、自分たちが出した答えを聞いてもらった。
私が出したなぞなぞ。それをケントさんは、『問いかけは同じだけど、それの答えが他とは違う』と言った。それで、その発想が面白い、とも表現した。
「『皆が知っているもの』、つまり『流行』です。『流行』は、それがどんなものか分かってるから、安心感がある。でも、安心感だけじゃ数字は取れないから、そこに『目新しさ』っていう要素をプラスするんです」
例えば、皆が知ってるなぞなぞの答えを、少しアレンジしてみたりだとか。
「同じだけど、違う。同じ流行だけど、どこかに新しさがある。それが、流行のその先、です!」
私とケントさんは、ドキドキしながらレジーナさんの返事を待った。
レジーナさんは、自室の椅子にくつろいだ姿勢で座りながら、少し笑った。
「アンタたち、やるわね。昨日の今日で答えを出しちゃうなんて」
レジーナさんが拍手した。
「そういうことよ。ただ目新しいだけのものがウケるのって、結構難しいから。王道に新しさを加えるの。それが、成功する秘訣よ」
「やったー! 大当たりだ!」
私とケントさんは、思わずハイタッチをした。
「元気ねえ」
レジーナさんは、ストロベリーブロンドの髪を揺らして笑っている。
「……で、その『新しさ』は、何にするのか決まってるの?」
「あっ……」
私たちは顔を見合わせた。答え合わせの方にばかり気を取られて、そんなことまで注意が回っていなかった。
「えーと、王道は『カフェ』だから……」
となると、今考えるしかない。
でも、間が悪い、なんてことはないはずだ。ちょうどレジーナさんも目の前にいるんだし、変な方向に走り出したら止めてくれるだろうっていう頼もしい状況だったからね。
「『新しさ』だよね。あんまりおかしなものを持ってきちゃうと、私たちのアカウントの方針の『落ち着いた雰囲気』が台無しになっちゃうし……」
「新しさ、新しさ、新しいカフェ……」
「新しいカフェ? ケントさんのところの『めしや』?」
「飯屋?」
レジーナさんが眉をひそめた。
「ちょっとアンタたち、そんなもの絶対に載せるんじゃないわよ。って言うか何よ、飯屋って。せめて『ご飯屋さん』くらいにしておきなさいよ。アンタ一応令嬢でしょう?」
「いえ、それがお店の名前なので……」
そういうレジーナさんも、聖女なのにちょっと口が悪いんじゃないのかな。
「でも、もうすぐ『めしや』は卒業ですよ。おしゃれなカフェになるんです」
いたたまれなくなったのか、ケントさんが口を挟んできた。
「どうやったら、『めしや』が『カフェ』になるの」
レジーナさんは、呆れつつも、少し笑った。
「それ、ちょっと見てみたいわね」
「見てみたい?」
インフルエンサーの一言に、私ははっとなった。
「ケントさん……これ、使えないかな?」
私はMNSの書を開いた。『カフェ』で検索をかけて、念写を漁る。……やっぱりそうだ!
「ケントさん、皆が載せてる『カフェ』って、完成したカフェばっかりだよ!」
「完成した?」
「作りかけのカフェなんてないの!」
私は首をぶんぶん振った。
「だからさ、『これから素敵なカフェを作ります』って感じの念写を載せようよ! 落ち着いた雰囲気のカフェが作られていくところを、皆に公開するの! こういうこと、誰もやってないよ! これなら、私たちのアカウントの方針から外れないで、『新しいこと』ができるんじゃないかな?」
「な、なるほど、その手がありましたか! ……レジーナさん?」
「現在進行形のライブ感をプラス、ね」
レジーナさんは頷いた。
「まあ、いいんじゃないの? ……ただし、『屋根に上って大工道具を振るってる汗臭い男』とか、『工事の途中で散らかり放題の店内』みたいなのは出しちゃダメよ。アカウントの雰囲気は、統一されてないといけないんだから」
「ああっ! 大変だ!」
私がもちろんです、って言おうとしてると、ケントさんが突然、大声を出した。
「店の改装、今日からなんですよ!」
「えっ、そうだったの!? 早く行かないと、いい念写を撮り逃しちゃう!」
私とケントさんは、挨拶もそこそこにレジーナさんの部屋を後にした。




