#まるで、恋みたい(2/2)
「……レジーナさんは、なんて言ってたかな?」
確か、『同じだけど、違うもの』を載せれば、MNSで数字が取れるって感じだったっけ。
それでリタさんは、『なぞなぞみたい』って返してた。
「うーん。『朝は四本、昼は二本、夜は三本になるものはなーんだ?』か」
僕は首をひねった。
レジーナさんの言いたかったことも、リタさんのなぞなぞも、結局答えが分からない。僕、頭が固いのかな?
「人間」
不意に声がして振り返ると、いつの間にか扉が開いていて、廊下に姉さんが立っていた。
「ね、姉さん! いつから……」
「ケントが、ハンカチの匂いを嗅いでた辺り」
この家、プライバシーとかないの? そろそろ僕、恥ずかしくて死んじゃうかもしれない。その前に、僕、匂いは嗅いでないよ! そんな変態みたいなこと、するわけないじゃん!
「……『人間』って?」
僕は投げやりな気持ちで尋ねた。もうどうにでもなれ、って感じだ。
「さっきのなぞなぞの答え」
姉さんは何でもないように言って、僕の向かい側に座った。
「『朝は四本、昼は二本、夜は三本になるものはなーんだ?』って言ってたじゃん」
「あれ、『人間』が答えなの!?」
予想外のことに、僕は目を見開く。
「そうだよ。有名ななぞなぞでしょ?」
姉さんは肩を竦める。
「ほら、人間は赤ちゃんの頃は四つんばいで、大きくなったら二本脚で歩いて、年を取ったら杖をつくでしょう? だから、それぞれ『四本』、『二本』、『三本』なんだよ。……あっ、三本、っていうのは、二本脚+杖、ってことね」
「な、なるほど……」
朝とか昼とかは、比喩だったんだ。今度リタさんに会ったら、答えが分かりました、って言わないと。
「……で、ケント。今日のデートは、もうおしまいなの?」
姉さんがニヤニヤした顔で聞いていた。僕は赤面する。
「ケント、前からあの人に目、つけてたもんね。MNSでやり取りしてたんでしょ。姉さんは、もう家、出てっちゃったっていうのに」
僕がリタさんの投稿を見るようになったのは、一番上の姉さんがきっかけだった。
姉さんは手芸が趣味だ。いつも、色んな作品を毛糸で作ってた。
だから、僕は言ってみたんだ。MNSにも、色んな作品がアップされてるよ、って。
でも、残念なことに、姉さんは大の魔導書オンチだった。だから、僕が代わりに自分のアカウントで、姉さんが好きそうな作品の念写を保存してあげることにしたんだ。
僕がリタさんを見つけたのは、その時だった。
最初の内は、リタさんの念写にいいねとかコメントをつけてたのは、無言で保存するのも悪いかなって思ったからだった。
でも、それをリタさんは思った以上に喜んでくれて、僕はそれが何だか嬉しかった。
後で知ったんだけど、ハンドメイド作品はMNSではあんまり人気がない分野だから、作品を出しても反応してくれる人が全然いなかったんだって。
そうやってやり取りをする内に、姉さんだけじゃなくて、いつの間にか僕もリタさんの作品のファンになっていたんだ。
姉さんが結婚して、家から出ていってしまっても僕がリタさんとの繋がりを切ろうと思わなかったのは、僕がリタさんの作品を好きだったからだ。
……作品だけじゃなくて、本人のことまで好きになるなんて、思ってもみなかったけどね。
「姉さん、僕は忙しいんだよ。……じゃあね」
僕はニヤニヤ笑っている姉さんを放って、居間を後にした。
別に嘘じゃない。僕は少し前、今はただ『一万いいね』達成だけを目標に頑張ろうと決めたんだから。




