#まるで、恋みたい(1/2)
それからしばらくして、リタさんは帰っていった。
でも、僕にはなんだか、リタさんがまだその辺りにいるような気がしていた。きっと、リタさんが握ってきた手が、未だに熱かったからだ。
――一緒にいると、ドキドキしたり、体が熱くなったり……。でもね、それって嫌な感じじゃないの!
リタさんは、そんなふうに言ってたっけ。
――なんか変だよね。まるで……。
まるで、なんて言おうとしたんだろう。
もしかして……だけど……恋みたい、とか?
そんなことを考えてしまって、僕は真っ赤になった。こ、恋だなんて、そんな……! リタさんが僕に!?
だって、それが恋なら、僕の方はどうなるって言うんだろう!? 僕だって、リタさんの台詞にいちいち動揺したり、赤面したりしてるのに!
これじゃあ、僕もリタさんに恋してるみたいじゃないか!
……え?
僕がリタさんに……恋?
いやいやいやいや! あ、あり得ないよ! そんなの! だって、リタさんは貴族のお嬢様で、僕はこんなオンボロの『めしや』の生まれなのに!
リタさんだって、お店を見た時引いてたじゃん! あれは、『えっ、何ここ、ボロっ! こんなところに人が住めるの!? 廃屋じゃなくて!?』って顔だった! 絶対そう思ってた!
でも、思ってても、リタさん、そんなふうには言わないんだろうな。代わりに見せてくれたのは、最高の笑顔だったし。
……リタさんの笑顔、可愛かったな。やっぱり僕、リタさんのああいう顔、好きだ。
……いや、顔が、ね!? リタさんが好きなわけじゃないよ!
だって、そんな。だって、だって……。
……だって、何なんだろう。
身分がどうこうとかいうのは、結局、建前でしかない。心は、そんなことには縛られない。
リタさんの笑顔も、逆境に立ち向かっていく姿も、皆、僕を引きつける。引きつけて、引きつけて、引きつけて。
それで、いつの間にか僕はリタさんのことを……。
「好きになっちゃってたのかな……?」
言葉に出すと猛烈に恥ずかしくなって、僕はリタさんから預かったハンカチに顔を埋めた。
「リタさん……」
今はこんなこと、考えてる場合じゃないのに!
僕たちは、『一万いいね』を取らないといけないんだ。そうしないと、リタさんの名誉が回復しない。
……よし、一旦は僕がリタさんに恋をしているってことは忘れよう。難しいかもしれないけど、一時的なものだ。きっとできる。いや、やらないと。
もし僕たちが一万いいねを取れたら……そうなったら、僕たちは一緒にいる理由がなくなっちゃうけど、僕の恋がどうなるのかは、その時考えよう。
今はひたすら、目標に向かって進むだけだ。




