#案外、お互い様(3/3)
ケントさんが案内してくれたのは、居間みたいなところだった。扉をしっかり閉めると、ケントさんは棚から救急セットを取り出した。
私は失礼にならない程度に、辺りを観察する。
小さい部屋だ。家具って言っても、ちょっとしたテーブルとか、ケントさんが救急セットを取り出した棚くらいしかない。
床には薄っぺらい絨毯みたいなのが引いてあるけど、何だかゴワゴワしていて、端の方がほつれていた。
……もしかしてケントさんの家って、貧乏なのかな? よく見たら、服装とかもなんだか質素だし。
それなのにカフェ巡りとか付き合ってくれてたの? 私、悪いことさせちゃったかもしれない。
「よし、できた」
ケントさんは傷に塗り薬をつけて、包帯を巻いた。この塗り薬のビンは……『ミスター・ペインの傷治し』だ! あれ、よく効くんだよね。これでもう安心だ。
「ハンカチ、ちょっと汚れちゃいましたね」
ケントさんは、さっきまで傷を覆っていた私のハンカチに目を近づけていた。白い布に、うっすらと血がにじんでいる。
「後で洗って返します」
「そんな! 気、使わなくていいよ。洗濯代とかかかるだろうし……。もっと他のことにお金使って。お店の改装とか」
「お店の改装?」
ケントさんが意外そうな顔になった。
し、しまった! ケントさんのお家、貧乏なのかな、って考えてたから、つい口が滑って……。
「……ごめん、余計なお世話だったね」
私はすぐに謝った。ケントさん、気を悪くしてないといいんだけど。
「……ボロボロでしょう? うちの店」
私が考えてることが分かったのか、ケントさんは苦笑いした。
「ずっと昔からありますからね。それでも、前はもっとお客さんが入ってたんですよ」
ケントさんはため息を吐いた。
「でも、何年か前に、交通の便がいい場所に、もっと綺麗な店ができちゃって、皆、そっちへ行くようになったんです。ここは大通りからそれた場所にありますし、段々とお客さんも減っていって……」
「誰も来てくれなくなっちゃったの?」
「常連さんは何人かいます。でも、お客さんが誰もいない時の方が多いですね」
「そう……なんだ……」
「気にしないでください。きっとまた、すぐに満員御礼になる! って父さんたちは言ってますし!」
私が深刻な顔をしているのに気が付いたのか、ケントさんはわざと明るい声を出しているみたいだった。
「さっきリタさん、『お店の改装』って言ってましたけど、実はその通りで、今、工事の計画が立ってるんですよ。って言っても、お金がないから、ほとんどは自力ですることになるんですけど。父さんなんて、『『めしや』って名前がいけないんだよ。『食堂』にしようぜ』って言ってるんです」
ケントさんはちょっと笑った。
「だから、僕、言ったんです。『どうせなら、『カフェ』にしない? 僕、色んなカフェを見て回ったから、何かアドバイスできると思うよ』って」
「カフェ?」
「はい。だからカフェ巡りも、案外僕にとってプラスになることなんです」
「そっか……そうだったんだね」
ケントさんにも、色んな事情があったみたいだ。私たちきっと、相手から与えられるだけの関係じゃなくて、案外『ギブ・アンド・テイク』ってやつだったのかも。
いつの間にか私の中から、後ろめたさが消えていた。持ちつ持たれつのこの関係の中で、何か私にできることはないかなって考えてみる。
「だったらさ、お店の改装が完了したら、それを私たちのアカウントに載せようよ」
そして、私にできることは、やっぱりこれかな、っていう結論を出した。
「MNSに素敵な念写を載せられたら、きっとお客さんもたくさん来てくれるよ」
「確かに……そうかもしれませんね」
ケントさんは嬉しそうに頷いた。
そうだ、これは私のためだけの『一万いいね』じゃなくて、ケントさんのためでもある。
そんなふうに思ったら、何だか力が湧いてきた。だって、大切な人の役に立てるなら、頑張らなきゃって思えるでしょう?
「これからも一緒に頑張ろうね、ケントさん!」
私は飛び切りの笑顔で、ケントさんの手を握った。今は恥ずかしさよりも、そうしたいっていう気持ちを優先させることにしたんだ。




