#案外、お互い様(1/3)
私はケントさんの後をトボトボと歩きながら、強い自己嫌悪を感じていた。
だって、私のせいでケントさんを怪我させちゃったんだもん。小さい切り傷って言っても、血も出てたし、きっと痛かったはずだ。
もしかして私、ケントさんに迷惑ばっかりかけちゃってるんじゃないのかな?
大体、私たちが目指してる『一万いいねを取る』っていう目標にしてもそうだ。
ケントさんは天使みたいに優しいから、困ってた私を見捨てられなかったんだろうけど、よく考えてみれば、私に協力するメリットなんて、ケントさんには何もない。それなのに私の事情に巻き込んじゃって……。
ああ、私って、すごくバカなのかもしれない。悪役令嬢Rだと思われてる私と一緒に街なんか歩いてたら、ケントさんも白い目で見られるって、ちょっと考えたらすぐに分かるはずだ。
それなのに私、ケントさんが怪我するまで、そんなこと考えもしなかった。ただ自分が悪口を言われるのを我慢すればいいやって、そう思ってたんだ。
「つきましたよ」
ケントさんが声をかけてきた。……あっ、そうか。ぼんやりしてて忘れかけてたけど、私たち、ケントさんの家に向かってたんだ。
ケントさんの家って、確かレストランを経営してたんだよね。
……レストランを。
レス……トラン?
「……ここがケントさんのお家?」
いや、確かに食事をするところではあるけども。
「……はい、一応」
ケントさんは、なんだか恥ずかしそうだ。
粗末な木の板の外壁と、ガラスも張られていない窓。傾いた看板には、かすれた字で『めしや』と書いてある。
「こっちです」
私の想像してたレストランとは、ちょっと違ったかも。
なんて考えてると、ケントさんが建物の裏手に回った。なんとなく、あんまりお店を凝視して欲しくなさそうな顔だった。それでもチラッと見えた店内には、お客さんは一人もいなかった。
私たちは、裏口っぽいところから中に入った。……わあ! いい匂い!
「お帰り、ケント! 早かったじゃないか! あんた、今日も遅くなるって言うから、昼飯は作ってな……」
裏口は、厨房に繋がってたみたいだ。中には、大きな鍋を振ってる女の人がいた。
「お邪魔いたします。ケントさんのお友だちの、リーゼロッタ・フォン・グローサベアーと申します」
もしかして、ケントさんのお母様かな? 私は、ドレスのスカート部分を持ち上げてお辞儀した。恩人の肉親だし、礼儀は大切だよね。
「まあ、まあ! あなた、ひょっとして『リタさん』かい!?」
「えっ、は、はい……」
女性は、鍋を置くと私の方に歩み寄ってきた。いきなり距離を詰められて、私は困惑する。
「ケントがいっつも噂してるよ! あらぁ、可愛らしいお嬢さんだねぇ! うちの子も、隅に置けないね!」
「ちょ、ちょっと、母さん!」
「なにさ、本当のことじゃないか!」
慌てるケントさんを余所に、お母様は豪快に笑った。
「あんた、『リタさんと出かけたり話したりするのは楽しい』って、よく言ってるじゃないかい! それこそ、あたしらの耳にタコができちまうくらいにね!」
「母さん、僕たち、急いでるから!」
ケントさんは私を目で促して、奥へと引っ込んでいった。
「し、失礼します」
置いて行かれないように、私も急いでその後を追った。後ろから、お母様の好奇心いっぱいの視線が追いかけてくる。




