#いつもの元気なあなたが好き(1/2)
僕とリタさんは、街へ出た。でも、僕はすぐにそうしようと思ったことを後悔した。
「ねえ、あれ……」
「ああ、間違いねぇ」
「MNSで見た通りだ」
あちこちの商店から、囁き声が聞こえる。
声の主は店員とかお客さんとか色々だったけど、共通してるのは、皆がリタさんを見てるってことだった。
でも、注目されてるのは、いい理由からじゃない。
「あの小娘が、悪役令嬢Rだってのか?」
もしかして、もうこの帝国でリタさんのことを知らない人はいないんじゃないかっていうくらい、彼女は有名人になってた。皆、リタさんが悪役令嬢Rだと思ってるんだ。
もちろん、こんなふうに影口を叩かれるのは、これが初めてじゃない。リタさんは気が付かないフリをしてるみたいだったけど、僕たちが初日にカフェ巡りを始めた日から、ずっとこんな状態だった。
影でコソコソ言われるなんて、リタさんが一番嫌いな状況だ。僕はいつも心配になって、リタさんの顔を盗み見てしまう。
「ケントさん、今日はここに行ってみない?」
リタさんが、自分の家から持ってきた雑誌らしいものを片手に話しかけてくる。
「妹のエリィさんが教えてくれたんだけど、ここのマフィン、すっごく美味しいんだって! カップの形も可愛いし、これはきっと、皆好きだと思うよ!」
リタさんは、周囲の冷たい視線をはね飛ばすような明るい声を出した。
リタさんはいつだってそうだ。明るくて前向きで、逆境にもめげない。
そんなリタさんを見てると、こっちまで楽しい気分になってしまって、僕もいつの間にか、周りの人のことなんて気にならなくなってしまう。
なんだか、二人だけの世界にいるような気になってしまうんだ。
「『皆好き』、ですか」
僕は、リタさんの台詞を繰り返す。思い出していたのは、レジーナさんの言葉だ。
――目新しさがないじゃない?
「リタさん、レジーナさん、言ってましたよね。『さらなる数字を稼ごうと思ったら、『流行のその先』に行かないといけない』って」
「ああ、『同じだけど、違うもの』だったっけ」
リタさんは首をひねった。
「あれ、どういう意味なんだろうね?」
『同じだけど、違うもの』は、レジーナさんがくれた、皆の一歩先を行くためのヒントだった。
けど、リタさんはまだその意味が分かっていなかったみたいだった。それは僕も同じだ。
でも、このまま人気カフェの念写を上げてるだけじゃ、一万いいねには届かないってことは、何となく分かるような気がする。
「うーん……。同じだけど、違う。同じカフェ……だけど、カフェじゃない?」
「カフェだけど、カフェじゃない?」
リタさんが目を瞬かせる。
「それって、カフェじゃなくない? 私たちのアカウントの方針と、ずれちゃうような気がするんだけど……」
「いや、カフェはカフェなんですけど、でも違うカフェってことで……」
話しながら、僕も自分で何を言っているのか理解できなくなってきた。リタさんが言った通りに、難しいなぞなぞを解いてるみたいな気分だ。




