#聖女先生はスパルタです(2/2)
「簡単だわ。インフルエンサーに『シェア』とか『いいね』をしてもらえばいいのよ」
「インフルエンサーに?」
「ええ。フォロワーには、フォローしている相手が、どんな投稿にどう反応したか分かるわよね? それってつまり、フォロワー数が多い人の目にとまれば、自然と大勢の注目を集められるってことになるでしょう?」
「な、なるほど……。で、肝心のインフルエンサーですけど……」
ケントさんは、レジーナさんに期待の眼差しを送った。
「あら、アタシ、弟子相手だからって、過度に手を貸してあげるつもりなんかないわよ?」
レジーナさんが両眉を上げた。
「アタシ、根性なしは嫌いだもの。……さあ、自分の脚でいいねを稼いで来なさい! ついでになぞなぞの答えも見つけてくるのね!」
私たちは部屋から追い立てられた。レジーナさん、スパルタだなあ。
「よし、じゃあ、今日も街へ行こうか」
レジーナさんが言うように、自力でどうにかするしかないか、と思って、私はケントさんに声をかけた。
「そうですね。……ところでリタさん、あれの答え、何なんですか?」
「あれって?」
「ほら、さっきレジーナさんに言ってた、『朝は四本、昼は二本、夜は三本になるものはなーんだ?』っていうのですよ」
「ああ、そのこと? あれはね……」
「お前たち、また来ていたのか?」
廊下の向こうから、声がした。歩いてきたのは、聖職者用のローブを身につけた赤毛の男性だ。
「帰れ」
誰だろうと思ってると、男性は唐突に冷たい言葉を放ってきた。
「レジーナ様は迷惑している。帰れ、今すぐ帰れ!」
男性はフードの奥から、らんらんと光る黒い目で睨みつけてきた。なんだか背筋がゾクッとする。
「あなた、何なんですか」
ケントさんが素早く前に出た。……あれ、もしかして、私のこと、庇ってくれてる?
「何だっていいだろう! 俺には、レジーナ様を守る役目があるんだ! 帰れ、帰れ!」
男性は、懐から魔導書を出してきた。あ、あれって、宮殿の守衛さんとかが持ってる、攻撃用の魔導書じゃない!?
「ケントさん、行こう!」
こんな丸腰で戦ったら、大怪我しちゃう! 私はケントさんと一緒に、転がるように宿舎を後にした。
「何なんですか、あの人」
ケントさんは肩を上下させながら、建物の入り口を睨んでいた。
「いきなり攻撃しようとするなんて、非常識ですよ」
「もしかして、レジーナさんの恋人、とか?」
私は、あの人が『レジーナ様を守る役目がある』と言ってたことを思い出していた。
「私たちがずっとレジーナさんの近くにいたから、焼きもち焼いちゃったのかな?」
「そんな可愛げがある人には見えませんでしたけどね。……まあ、リタさんに怪我がなくて良かったです」
「……私、びっくりしちゃった。ケントさんが庇ってくれるなんて、思わなかったから」
あの時は深く考える余裕なんてなかったけど、今になって、ケントさんの後ろ姿を思い出して、少し体が熱くなってきた。
それに、不思議な話なんだけど、私よりもちょっと背が高いくらいの小柄なケントさんが、やけに大きく見えたような気もしたんだ。
「そりゃあ、庇いますよ。当然でしょう?」
ケントさんが、いつもの天使の笑顔を向けてきた。
「……ありがと」
まずい、ドキドキしてきた。どうしよう、顔、赤くないかな?
「さあ、気を取り直して、街に出発しよう!」
ケントさんに気付かれる前に、私はわざと元気な声を出して、小走りになりながら、教会の出口に向かうことにした。




