#聖女先生はスパルタです(1/2)
「見てください、レジーナさん! 私たちの投稿に、十五もいいねがついてますよ!」
私たちがアカウントの運用方針を決めてから一週間後。
私とケントさんは、レジーナさんに会いに中央聖教会に来ていた。
「あら、良かったじゃない」
今回の私たちは客間じゃなくて、修道院内の聖職者たちの宿舎に通された。今話しているのは、レジーナさんの私室の中だ。
聖職者が住んでいる場所だけあって、レジーナさんの部屋は質素だった。でも、やっぱり『聖女』っていう特別な人だからなのかな。部屋自体は他よりも広いみたいで、居間と寝室に別れてる。
今日のレジーナさんは、髪を一つ結びにしてた。ロングヘアーをまとめてるバラ模様のリボンが、左耳の下でふんわりと揺れている。
前につけてたアクセサリーにもバラの飾りがついてたし、レジーナさん、バラが好きなのかな?
「まあ、一万いいねには程遠いけどね」
「でも、最初と比べたら、すごい進歩です!」
はしゃいだ声を出すケントさんを見て、レジーナさんが、「子犬みたいな顔するわね、アンタ」と吹き出した。
「それにしても、選んだのが、『平民の娘が好きな落ち着いたカフェ』だったなんてね。悪くないチョイスだと思うわよ」
レジーナさんが褒めてくれた! やっぱり結果を出している人に認められると、素直に嬉しい。
「僕たちの投稿、まだ伸びますかね?」
それでも、ケントさんはちょっと心配そうだった。
「そうねぇ……」
レジーナさんが真剣な顔をしながら、私が『ハニー』と名付けた新生アカウントのタイムラインを遡る。
「まあ、伸びしろはあるんじゃないの?」
「伸びしろ、ですか」
「例えば、そうね……」
レジーナさんは口元に手を当てた。
「ここに投稿した念写って、有名なカフェとかよね」
「はい、人気店です」
私たちは、MNSで検索をかけたり、街で情報収集したりして、色々とお店をピックアップしていた。
「でも、そういうところって、なんていうか、目新しさがないじゃない?」
「えっ、でも、『流行ってる』って、そういうことじゃないですか?」
ケントさんが首を傾げた。
「皆が行きたいと思うような場所。食べたいと思うようなもの。そういうのが、『流行』でしょう?」
「ええ、そうよ」
レジーナさんは、ケントさんの言ったことを否定はしなかった。
「でもね、さらなる数字を稼ごうと思ったら、『流行のその先』に行かないといけないの」
「流行の……その先……」
なんだか難しそうな話だ。私が困った顔になっていると、レジーナさんが不敵な笑みを浮かべた。
「ほら、よく考えてみなさいよ。『汝、思考せよ』よ」
「で、でも、ヒントとか……」
「まったく、しょうがない子ね」
やれやれとレジーナさんは肩を竦めた。
「簡単よ。『同じだけど、違うもの』ってこと」
「お、同じだけど違う……?」
訳の分からない言葉に、私はポカンとした。ケントさんも呆然としている。
「なんだか、なぞなぞみたいですね。ほら、『朝は四本、昼は二本、夜は三本になるものはなーんだ?』って感じの」
「そんなところね。なぞなぞなら、答えがあるでしょう?」
私の言葉に、レジーナさんがいい笑顔になる。
「なぞなぞも解かないといけないなんて、バズるのも大変ですね……」
ケントさんが困ったように言った。
「当たり前でしょ? ま、手っ取り早く広まる方法なら、ないこともないけどね」
「手っ取り早く……? そんな裏技があるんですか!?」
まさかの言葉に、私は身を乗り出した。
「お、教えてくれたりとか……」
「いいわよ。別に隠しておくようなことじゃないし」
レジーナさんは人差し指を立てた。




