#よく分からないけど、変だっていうのは分かる(1/3)
翌日。私とケントさんは、一冊のノートを片手に、街を歩いていた。
「よし、まずは、昨日レジーナさんから教えてもらった、MNS攻略のテクニックをおさらいしよう!」
私はノートを開いた。ちなみにノートの表紙には、『聖女先生のMNS講座』と書いてある。
「えーと、①は、『ターゲットを誰にするのか考えておきなさい』」
横からのぞき込んできたケントさんが読み上げる。
ケントさんって、人が持っているものを間近で覗く癖でもあるのかな? 私、こういう距離感で話されると、なんだか緊張しちゃうんだけど……。
「ターゲット……私たちの投稿を見てくれる人ってことだよね? だったら、やっぱり平民かな」
確かレジーナさんは、「皆にウケるものなんて、この世に存在しないわ! だから、狙いを一部に絞るのよ!」って言ってたっけ。
そこで私は、今回『狙う』のを、『平民』にすることにした。
もちろん、MNSユーザーの大多数が平民だからだ。それに昨日、これからは『平民感』が大事だ、ってレジーナさんにも言っちゃったしね。
ケントさんも、私の言葉に頷いていた。
「歳は、僕たちと同年代の方がいいですよね。同い年くらいの人たちのことなら、よく分かりますし。それで……どっちかっていうと、女性向け、でしょうか?」
「女性向け?」
「だってリタさんって、女の人でしょう? だったら、女性の方が感性が合うかなって思ったんですけど」
ケントさん、私のこと、優先してくれてるんだ。紳士的な態度が、なんだか嬉しい。
「よし、じゃあ、ターゲットは、『私たちと同い年くらいの平民の女性』に決定だね!」
私は、決まったことを早速ノートに書き込んだ。
「じゃあ、次」
「②は、『事前にアカウントの方針を決めておいて、投稿内容に一貫性を持たせなさい』」
ケントさんが、昨日のことを思い出すように首をひねる。
「レジーナさん、言ってましたよね。『MNSは、テキストメッセージだけでも投稿ができるけど、やっぱり念写があった方がウケがいいわ。MNSって、念写を見る場だから』って」
ケントさんが、レジーナさんの偉そうな話し方を真似する。全然似てなくて、笑っちゃった。
「でも、やたらめったら念写を投稿するのもダメなんだよね。ファッションならファッション。化粧品なら化粧品で、同じ分野のものばっかりを投稿した方がいい……」
『投稿内容に一貫性を持たせなさい』っていうのは、そういう意味だ。
確かに言われてみれば、なるほどって感じのアドバイスかも。
私、前にMNSで偶然ユニコーンの赤ちゃんの念写を見かけて、それがとっても可愛かったから、投稿者のタイムラインに飛んでみたことがあったんだ。
でも、その人は他には自分の日常の出来事とかしか投稿してなくて、ちょっとガッカリしちゃったんだよね。私、もっとユニコーンの念写が見たかったから。
あのユニコーンは、投稿主が旅行先でたまたま見かけたものだったみたい。
こういう経験があったから、このアドバイスは、すんなりと受け入れられた。問題は、私たちが何を投稿するかだ。
「うーん……。私の得意分野って言ったら、やっぱりハンドメイド作品だけど……」
人気がないんだよねえ、これが。MNSウケを狙うなら、もっと注目されてる分野の方がいいよね。
「僕はリタさんの作品、とっても好きですよ」
ケントさんが慰めてくれた。
「真心がこもってて、この人は楽しんで作ったんだろうなっていうのが分かりますから。そういうの、本当に素敵だと思います。他の大多数は無視したけど、僕はリタさんの作品をこの広いMNSの世界で見つけられて、本当に良かったって感じてますよ」
「ケントさん……」
素敵なのは私の作品じゃなくて、そんなふうに言ってくれるケントさんの方だ。この褒め言葉だって、まるで情熱的な愛の告白みたいだし。
……愛の告白!?
とっても恥ずかしい例えをしてしまったことに気が付いて、私は狼狽えた。いや、でも、そんなふうに聞こえなかった!? だって、『リタさんとこの広いMNSの世界で出会えて良かった』だなんて……。
ああ、違う! 『リタさんと』じゃなくて、『リタさんの作品と』ってケントさんは言ったの! 私、耳がどうかしちゃったのかも! 一体何を考えてるの!?
「リタさん、どうしました!?」
私が両手でほっぺたを押さえてると、ケントさんがびっくりしたような声を出した。こっちの顔をのぞき込んできて、私は悲鳴を上げそうになる。
でも、驚いたのはケントさんも同じだったみたい。
「顔が真っ赤ですよ!? 具合でも悪いんですか!?」
「ち、違……あのね、なんだか熱くて……」
嘘じゃない。だって、なんだか体がじっとりと汗ばんでいたから。心臓がバクバクしている。私、本当にどうしたんだろう。よく分からないけど、変だっていうのは分かる。
「最近、気温が上がってきましたからね」
ケントさんは私の言い訳に納得したのか、手のひらで目の上にひさしを作りながら、空を見上げた。
「どこか、涼しいところでも行きましょうか。僕、この辺りの穴場のカフェ、知ってますよ」
そう言って、ケントさんは私の手を掴んで、先導するように歩きだし……ちょ、ちょっと待って!? 私たち今、手、繋いでるの!?
私はまたプチパニックに陥った。内心でキャーキャーと悲鳴を上げる。……いや、全然嫌とかじゃなかったんだけど。で、でも、こんなの、恥ずかしいじゃん!




