#売られたケンカは買え!(1/1)
「リーゼロッタ! 帰っていたのなら、そう言わんか!」
ケントさんと別れて、レジーナさんのところから帰ってくる頃には、すっかり夕方になっていた。
玄関ホールで待ち構えていたおじい様に、私は帰宅して早々怒鳴られる。
「一体いつまでアームストロング家に入り浸っていたんだ! きちんとあの小僧に文句を言ってやったのだろうな!?」
そうだった! 色んなことがいっぺんに起こりすぎて、おじい様に経過報告をするの、すっかり忘れてた!
「もちろん、ちゃんと言いましたよ」
私は、急いで弁解した。
「ちょっと色々あって……。あっ、そうだ」
私は、ロードリックさんのある言葉を思い出していた。
「ロードリックさん、婚約破棄に関する文書を送ったって言ってましたけど……」
「ふん、これか?」
おじい様は、片手に持っていた紙をヒラヒラと振ってみせた。
「なんだかんだと失礼なことが書かれていてな。ここまでうちの孫娘をコケにされたら、黙ってはおれん! 結婚の約束なんぞクソ食らえ! と返してやったわ!」
「そ、そうですか……」
せめて一言くらい、お父様やお母様に相談して欲しかったんだけど……。
でも、外国へ行っちゃってるお父様たちの代わりに、この家を取り仕切っているのはおじい様だから仕方がない。って言うか、うちの当主だしね。
これで、私とロードリックさんは、『正式に』破局したわけだ。でも、だからって何もかも終わったってわけじゃない。だってこのままだと、私が悪役令嬢Rだっていう汚名は返上できないままだからね。
「おじい様、ロードリックさんが、婚約破棄の件は考え直してもいいと言っていました。それから、私を勘違いで辱めたことも、謝ってくれるそうです」
「今頃何を抜かしているんだ」
おじい様は本気にしてないみたいだった。
「自分のしてしまったことを反省した、というわけか? はん! 百年遅いわ!」
「いえ、そうではなくて……」
あのロードリックさんが、反省なんてするわけないじゃん。
「私、ちょっとした勝負を挑まれたんです」
「勝負?」
おじい様の目がキラリと光った。
「ロードリックさん、私にMNSでいい結果を残せって言いました。そうすれば、今までのこと、全部なかったことにしてやろうって」
私は、おじい様にも分かりやすいように説明した。
「私、その勝負を受けました。だって、バカにされたままだと悔しかったんです」
「その通りだ!」
おじい様はさっきとは打って変わって、別人のように嬉しそうな顔で私の肩に勢いよく手を乗せた。
「売られたケンカは買う! それでこそ我が孫だ! 黙って引き下がるなど、グローサベアー家の名折れ! 相手が卑怯者とあらばなおさらだ!」
おじい様は、私の背中を強く叩いた。い、痛い……。でも、ちょっと気合いは入ったかも。
「ぐうの音も出ないほどにボコボコにしてやれ! お前の実力を見せつけてやるのだ、リーゼロッタ!」
「は、はい!」
「分かっているとは思うが、勝負には万全の態勢で臨むんだぞ!」
「ええ、そのつもりです。もう、協力者も見つけましたし」
「さすがだ! よし、早速使用人に命じて、お前の靴の中敷きに、アームストロング家の小僧の顔の刺繍をさせよう! お前は、あの小僧を毎日足で踏みながら過ごすのだ!」
おじい様は高らかに笑った。いや、ちょっとそれはやり過ぎじゃない?
でもこれで、私がこれからしようとしていること――『汚名返上のために一万いいねを獲得すること』に、免罪符が与えられることになった。
今さら引き下がれないって言っても、勝手にロードリックさんの挑戦を受けちゃったのは事実だったからね。
「リーゼロッタ! あいつの鼻を明かすんだ! 何としてもな!」
おじい様はやる気だ。でも私だって、同じくらい燃えてる。絶対に『一万いいね』、取ってみせるんだから!
「はい!」
私はおじい様に向かって、大きな声で返事をしてみせた。




