#アタシ、清らかな乙女だもの(1/1)
修道院で、夕刻を告げる鐘が鳴っている。
今日のアタシは、久しぶりに気分が良かった。ついさっきまで話し込んでいた二人組の顔を思い出す。
あの二人は、アタシに頼りっぱなしの他のバカどもとは全然違った。本気で一万いいねを取りに行こうとしている。
なんだか教団を必死で盛り立てようとしてた時期のアタシと重なって見えて、つい放っておけなくなってしまった。
もちろん、アドバイザーになるって言ったことも、ちっとも後悔はしてない。あの二人の行く末を、とことんまで見守りたくなったから。
……ふふ。結局は人助けしちゃうなんて、やっぱりアタシも聖職者の端くれね。
「レジーナ様、なんだか機嫌がいいですね」
そんなアタシの晴れ晴れした気分に水を差すように声をかけてきたのは、ライリーだった。相変わらずうだつの上がらない顔で、アタシをじっと見てる。
「またあの二人が来たんでしょう? 一日に二回も来るなんて、しつこい人たちですね。次も来たら、俺が追い払ってあげましょうか?」
「結構です」
追い払う? バカ言ってんじゃないわよ。アンタ、身長はアタシと同じくらいあるけど、そんなヒョロヒョロした体で何考えてんの? あのリタとかいう小娘の方が、よっぽど強そうだったわ。
「わたくし、大司教様に呼ばれているんです。失礼しますね」
アタシは、優雅に一礼して立ち去ろうとした。
でもこの男、本当に空気が読めない。「待ってください!」と言って、アタシの腕を掴んできた。
「レ、レジーナ様、俺の気持ちに気が付いているでしょう? 俺はあなたの役に立ちたいんです! ですから……」
ひぃっ。気持ち悪っ! 鳥肌が立っちゃったわ。
「申し訳ありません。わたくしは神にお仕えする身ですので……」
アタシの役に立ちたいってんなら、さっさと視界から消えなさいよ! 眼中にない相手から言い寄られるくらい気分の悪いこともないわ!
「レジーナ様、俺は本気です!」
「……っ! やめてください!」
うわあぁ! 何顔とか近づけてんの!? やめて、本当に無理っ! 一発殴られたいのかしら!?
「離してください!」
でも、アタシはグッと堪えて、可憐な声を出しながら、体をひねった。髪の結び目が解けて、バラバラと顔にかかる。もう! これ、セットするのにどんだけ時間かかったと思ってんのよ!?
「ライリー! 何をしてるんだ!」
アタシがか弱い聖女のフリをしていると、礼拝堂の中から大司教様が出てきた。ライリーが、パッと手を離す。
「まったくお前は……。レジーナは聖女なんだぞ。お前なんかが手を出してはいけない、清らかな乙女だ。分かっているのか?」
大司教様が自分の法衣をアタシに着せかけてくれながら、ライリーを叱る。ライリーは小さくなっていた。ふん、いい気味だ。
「さあ、行くぞ、レジーナ」
大司教様と約束があったのは本当だ。アタシは縮こまっているライリーを放って、その場を後にした。
せっかくいい気分だったのに台無しだ。これは、またどこかで発散する必要があるかもしれなかった。




