#アンタたち、本気なのね(1/2)
夕方。僕とリタさんは、もう一回中央聖教会へ向かった。
目的は、もちろんレジーナさんに会うことだ。
レジーナさんは、特に迷惑がる様子もなく、僕たちに会ってくれた。朝方と同じように客間に通された僕たちに、「どうしました?」と尋ねてくる。
「レジーナさん、僕たち分かったんです」
「何がでしょう?」
僕が切り出すと、レジーナさんは表情を崩さずに問い返す。
「レジーナさん、『少しは頭を使ってください』って言いましたよね? だから僕たちなりに、色々と考えたんです」
僕はリタさんに目配せした。リタさんはこくんと頷く。
「レジーナさん……これからのMNSで受け入れられるのは、ズバリ『平民感』なんじゃないですか?」
レジーナさんの深緑の目が、少し見開かれた。
「私たち、MNSでウケてる投稿を色々と見て回ったんです。例えばこれ……」
リタさんがMNSの書を出して、ある投稿を見せた。帝都で今話題の歌劇団に所属する、歌姫がアップしたものだ。
「この歌姫さん、小さい庭で泥だらけになりながら、花の植え替え作業をしてます。歌姫って言ったら普通、豪華な衣裳とかを着て、キラキラした舞台で歌ったり踊ったりする人なのに」
それから……と言いながら、次にリタさんが見せた投稿は、例の皇帝陛下の念写だった。レジーナさんが、少し息を呑んだのが分かった。
「この念写に映ってる色々なもの、確かに少し値は張りますけど、机もティーカップも、平民でも十分に手が届くような品ばかりです。それに皇帝陛下も、随分とリラックスした装いです」
レジーナさんの目が、MNSの書に釘付けになっている。僕はこっちに注意を向けてもらおうとして、レジーナさんに話しかけた。
「僕たち、MNSの書専門店に行って、店員さんに質問しました。『お客さんって、どんな人が多いですか』って。そうしたら店員さん、『平民の方ですね』って答えてました」
何件か回っても、全部同じような答えだった。
もちろん、貴族街のど真ん中にあるような店は例外だったけど、貴族街と平民街の境目くらいにある店の店員さんは皆、『客は平民の方が多い』と答えていたんだ。
「レジーナさん、私、『一万いいねを取る』ってどういうことかよく考えたんです。それってつまり……『多くの人の目にとまる』ってことですよね? じゃあ、その『多くの人』っていうのは誰なんだ、って話ですけど……」
リタさんが、僕の方をチラッと見た。
「この帝国の人口の大多数は平民です。それは、MNSのユーザーも同じ。MNSのユーザーは、貴族よりも平民の方が多いんです」
リタさんの言葉を、レジーナさんは少し身を乗り出して聞いていた。ううん、聞き惚れてる、って言った方がいいのかな。表情が、さっきまでと全然違う。なんて言うか、生き生きとしていた。
「だから、『MNSでウケるもの=平民にウケるもの』なんです。平民たちが、『自分たちがいるところが想像できる空間』とか、『自分たちが使うところがイメージできるもの』とか、そういうのが人気なんじゃないでしょうか?」
でも多分、それに気が付いてる人はまだ少ない。
だから、リタさんの貴族仲間たちは、今まで通りの、『貴族にウケそうな』、盛りまくられてる華やかさを重視した投稿ばかりしていた。
でも、皆が見たがってるのはそういう念写じゃないから……だから、貴族の投稿よりも、平民の投稿の方に、たくさんのいいねがつくことがあったんだ。
これが、僕たちが出した結論だった。
さあ、レジーナさんは、これをどんなふうに受け止める?
僕は息をするのも忘れそうなくらい緊張しながら、レジーナさんを見つめて、彼女が何か言うのを待った。




