#初投稿失礼します(3/3)
「でも、今トピックに行っても、どうせ悪役令嬢R関連の投稿しか……」
そんなふうに言いながらも、私はトピックのボタンをタッチした。
『今日は、公務はお休み』
……あっ、トピック、更新されてた。
「皇帝陛下だ……」
悪役令嬢Rを颯爽と蹴落とし、MNS界の帝王の投稿がトップに出ていて、私の心は躍った。
皇帝陛下はケントさんの言う、『普段からいいねを取っている人』の条件に、ぴったり当てはまる方だったからだ。
皇帝陛下は、宮殿のバルコニーみたいな場所で、微笑みながらティーカップを傾けていた。
シンプルでゆったりとしたデザインの部屋着とガウン。少し癖のある艶やかな黒髪を緩くまとめて、背中に流している。長いまつげに彩られた紫の目は、紅茶の香りを楽しむように細められていた。
白くて清潔な感じのする頬に日光が当たって、まろやかな顔の輪郭を照らしている。背景に写っているのは、バルコニーの手すりにとまる可愛らしい小鳥だ。
『#私の日常』、『#アフターヌーンティー同好会』。そんな感じのハッシュタグも添えられてた。
「はあ……」
私は思わずため息を吐いた。この方、女神か? 男性だけど、皇帝陛下には性別を超えた美しさがある。私のお父様とほとんど歳が変わらないなんて信じられない。
まだ投稿してからそんなに時間は経ってないのに、コメントも百件以上ついていた。『本日もお元気そうでなによりです』とか『ちょっと納税してきます』とか。ほとんど好意的な言葉ばっかりだ。
「相変わらず眩しいなあ……。いいねも、もう十万もついてるし……」
「眩しい? 盛りまくった投稿でも見つかりましたか?」
私が漏らした一言を聞きつけたケントさんが、こっちへ首を傾けてくる。「違うけど……」と私は勘違いを訂正して、トピックを見せた。
「陛下ですか。僕もそれ、見ましたよ」
ケントさんも、自分のMNSの書のページをめくって、トピックの欄に目を通しているみたいだった。
「それにしても、案外盛りまくった投稿ってないものですね」
ケントさんが言った。
「さっきの陛下の投稿もそうですけど、全然デコデコしてないし……」
えっ、そうだったっけ? 皇帝陛下の美しさに気を取られて、そんなことにまで注意が回ってなかった私は、慌てて紙面に視線を戻す。
……本当だ。ケントさんの言う通りだね。あらためて見返してみると、皇帝陛下の念写はもちろんだし、トピックに載ってる他の投稿にも、そこまで派手なものはないみたい。
そう言えば……それだけじゃなくない? ケントさんに見せてもらった平民たちの念写も、全然盛られてないのに、かなりいいねがついてるものもあったよね?
……あっ。
「ケントさん!」
私はMNSの書を放り出して、思わずケントさんの肩を揺さぶった。
「行こう、MNSの書専門店へ!」
「へっ? はい?」
ケントさんはびっくりしたのか、変な声になっている。
「私、気が付いたかもしれないの! レジーナさんが何を言おうとしたのか!」
それを確かめるためにも、こうしてはいられない。早く外に出て、確認しないといけないことがあった。




