#初投稿失礼します(2/3)
「……反応、ないね」
一時間後。軽い昼食をすませた後でワクワクしながらMNSを開いた私は、ちょっとショックを受けていた。
私とケントさんの記念すべき初投稿は、まさかのゼロいいねだった。……ゼロだよ! ゼロ! こんなことってある!?
「何が悪かったのかなあ……」
私は元々持っていたMNSで、フォローしている人たちのタイムラインを覗きに行った。『タイムライン』っていうのは、投稿を時系列順に表示したもののことだね。
「うーん……でも、皆こんな感じのキラキラした念写、載せてるんだよね……」
三十いいねに、五十いいね。確かに一万いいねには全然届いてないけど、それでもゼロいいねってことはなかった。私とこの人たちの違いはなんなの?
「……あっ、リタさん。これ……」
悶々としながらタイムラインを遡っていると、ケントさんが声をかけてきた。ケントさんも、自分のMNSの書を開いている。
そこには、ケントさんがフォローしてる人の、『シェアした投稿一覧』の欄が表示されていた。
シェアっていうのは、人の投稿を自分のタイムラインに流せる機能のことだ。
『このお方が英雄? 片腹痛いですわ! わたくしが、正義の鉄槌を下してさしあげましょう!』
テキストメッセージも過激だけど、ハッシュタグも、『#生前はかなりの好色家』、『#変態に天罰を』とか、不穏なものばっかりだ。
投稿されている念写は、帝都の第三広場にある、百年前の戦争で武功を立てた将軍の像の腕がへし折られている、というものだった。
投稿者は、『悪役令嬢R』となっている。私は、げっ、と顔をしかめた。
「うわ……もういいねの数が二万を超えてる……。シェア数も七千もあるし、これは相当拡散されてますね……。あっ、トピックにも一位で載ってますよ」
ケントさんの言葉が終わらない内に、私のホーム画面の通知が、パンクしそうなくらいのコメントを受け取ったことを知らせてきた。どうせ、私への悪口ばっかりだろうと思って、無視をする。
って言うか、これからはこの『リタ@手芸』のアカウント、見ない方がいいかもしれない。どうせ覗いたって、ろくなことが書かれてないんだし。
「もう、どうして私たちの投稿には一つもいいねがつかないのに、こんな悪魔の念写は、皆が見てるわけ!?」
私は腹が立ってしょうがなかった。こんなものを拡散している人は、一体どういう神経をしてるの!?
「……気にしないで、僕たちは、自分のやるべきことをしましょう」
ケントさんがため息をついて、私のMNSの書に顔を近づけてきた。
「これは……リタさんの貴族仲間の投稿ですか?」
「……そうだよ」
私も悪役令嬢Rのことは一旦忘れて、MNSの書に目をやった。
「やっぱり貴族ってすごいですね。なんていうか……華やかです」
ケントさんが目を輝かせている。きらびやかなものが好きなのかな。それか、あんまりなじみのない世界を垣間見て、好奇心がくすぐられたとか。
どっちにしても、何となく可愛い。ケントさんは、やっぱり可愛い癒やし系だ。私とはちょっと違ったタイプだけど、それでも、こうして話してて嫌な相手じゃないのは確かだった。
「ケントさんがフォローしてる人は、貴族は少ないの?」
「そうですね。大半が平民です」
ケントさんは、自分のタイムラインを見せてくれた。
「……貴族と比べたら、すごく地味でしょう?」
ふんふん……。家族とピクニック、友だちと露天で買い物中。中には……職人さんかな? ベッドみたいな家具を作ってる最中の念写もあった。
確かに、私の貴族仲間のキラキラ盛り盛りした投稿と比べたら地味だ。でも私は、案外嫌いじゃなかったりする。
「私、こういうのの方が好きだよ」
私が正直に言うと、ケントさんは少し嬉しそうな顔になった。もしかしてケントさん、私たちの身分差に、気後れとか感じてたのかな?
そんなふうに気なんか使わなくてもいいのに、って思いながら、私はケントさんのMNSの書の紙面に目を落とした。
「ほら、皆も案外そんなふうに思ってるんじゃない? 結構いいねがついてる投稿もあるし。わあ……これなんて、百以上も……」
「あの、リタさん。ちょっと思ったんですけど」
私に気を使わせてしまったと感じているのか、遠慮がちにケントさんが話を変えてきた。
「もっと他に視点を向けるのはどうでしょう? 僕たちが目指しているのは一万いいねです。だったら、仲間の念写とかじゃなくて、もっと普段からいいねを取ってる人の投稿を見る方がいいんじゃないでしょうか?」
なるほど、ケントさんの意見も、もっともかもしれない。私は、自分のMNSの書に目を向けた。




