#初投稿失礼します(1/3)
レジーナさんと会った後、私とケントさんは、中央聖教会を出て私の家に帰った。
「それにしても、『考えろ』って言われてもね……」
レジーナさんの言葉を、『少しは自分で考えたら助けてあげます』っていう意味だと解釈した私たちだったけど、肝心の『考える』作業は、あんまり上手くいってなかった。
「とりあえず、何か載せてみますか」
ケントさんが気晴らしをするみたいな口調で言った。
「そうだね」
確かに、悩んでばかりいてもいい案は浮かんできそうになかった。私は元婚約者のロードリックさんからもらった、新しいMNSの書を開く。
『ようこそ、新規 様。あなたのアカウント名を教えてください』
魔力を流し込むと、左側のページに文字が表示された。そういえば、アカウント名、まだ考えてなかったっけ。
何がいいかな、と思って顔を上げると、ケントさんと目が合った。ケントさんの瞳は、蜂蜜みたいな優しいオレンジ色だ。
もうすぐお昼時だし、お腹空いたな、と思いながら、私は右側のページにペンを走らせた。
『ハニー 様ですね? パスワードを設定してください』
これは……私が元から持ってたMNSの書と同じで、自分の誕生日でいっか。……よし、設定完了。これでMNSが利用できるようになった。
「さて、何撮ろっか?」
準備は万端だったけど、肝心の被写体がない。私は、辺りをぐるりと見回した。
私の部屋は、花柄の壁紙を貼って、ちょっとしたタンスとか机とか小物入れとかを置いてあるだけの、適度に可愛くて、かつシンプルな内装だった。こういうところを撮っても、あんまり映えないんじゃないかと思う。
「うーん……ちょっと、魔法でもかけてみますか」
ケントさんは立ち上がると、壁に手をついた。そこに魔力を流し込んで……壁が、あっという間に虹色になった。
「リタさん! 早く!」
ケントさんが急かしてくる。ケントさんは本職の魔術師じゃないから、この状態を長い間保つのは難しいんだろうね。私は急いでMNSの書を構えて、魔力を追加で注入した。
パシャ。
小気味のいいシャッター音が響いて、念写することに成功した。右ページに、撮ったものが表示される。
「虹色の部屋、か」
確かにインパクトはあるけど……。でも、これだけだと、なんだか普通かな。もう少し工夫を凝らした方がいい気がする。
「加工しますか?」
壁から手を離したケントさんが尋ねてくる。
「そうだね。フィルターを使って……」
MNSの書には、備え付けの機能がいくつかあるけど、フィルターもその内の一つだ。
フィルターを使うと、撮った念写に色をつけたりすることができて、雰囲気を変えられる。念写を撮る時のテッパン機能だね。
MNSの書には、アンティーク調だったり、モノクロだったりと色んなフィルターが入っていた。それにプラスして、MNSの書専門店なんかに売ってる『サプリメント』を使えば、もっと色々な加工ができるようになるんだ。
『サプリ』っていうのは、『補遺』とか『追録』なんていう難しい意味だけど、要するに『足りない何かを補うもの』ってことだ。
でも、今回は備え付けの機能から選べばいいか。私は悩んだけど、最終的にはピンク色のキラキラしたフィルターを選択した。……うん、可愛い雰囲気になった!
「じゃあ、投稿ですね」
ケントさんが言った。いつの間にか紙面をのぞき込んでいて、ちょっと顔が近い。少しドキッとしながら、私はホーム画面へ行って、『投稿する』のボタンを押した。
さっき撮ったばかりの念写を選んで……添えるテキストメッセージは、『壁が虹色になっちゃった!』とかでいいか。
「じゃあ、投稿するよ?」
MNSには、ハッシュタグっていう、『#』こんな感じのマークを使った機能がある。投稿テキスト欄とは別に、ハッシュタグを書き込む欄があるんだ。
ハッシュタグは、特定のテーマを検索できる仕組みだ。例えば『#猫』とかで検索すると、『#猫』をハッシュタグ欄に書き込んだ投稿が一覧になって表示される。
これ、念写を検索したい時とかに便利なんだよね。面白いハッシュタグ巡りなんかしていると、あっという間に時間が溶けていっちゃう。
でも、今回は壁を虹色にしただけだし、ハッシュタグはいいかな。私は『壁が虹色になっちゃった!』のメッセージと一緒に、念写を投稿した。
さて、いくつ『いいね』がつくかな? 楽しみだ。




