#悪役令嬢R、断罪?(1/1)
「リーゼロッタ! お前との婚約を破棄させてもらう!」
あちこちに噴水や金ピカのオブジェが設置され、派手なシャンデリアがぶら下がった広間。そこに芝居がかった声が響く。
「……え?」
突然名前を呼ばれた私は、驚いて固まった。料理を山盛りにしていたお皿を置いて、玉座みたいな、大きくてゴテゴテした椅子に座った青年を、呆然と見つめる。
「ロードリックさん? 一体何言ってんの?」
辺りを飛んでいた七色の妖精を指先で弾き飛ばし、そこら辺を歩いていたクジャクの尻尾につまずきそうになりながら、私は婚約者のロードリックさんのところへ駆け寄った。
ロードリックさんはかなりの大声を出していたから、当然辺りにいた人たちも、私たちの方を注目していた。
皆、何事って感じの顔してる。いや、一番びっくりしてるのは、名指しされた私なんだけどね。
中には手提げカバンから、本……って言うよりも、魔導書を取り出してる人もいた。ちょっと嫌な予感がしたけど、今はロードリックさんを問い詰める方が先だよね。
私は、一旦は周囲の人たちを無視することにした。
「婚約を破棄? どうしていきなりそんなことを?」
「『どうして』だって? これはこれは……。お前には何も自覚がないと見える」
ロードリックさんは、大げさに肩を竦めてみせた。
さっきの突然の婚約破棄の宣言と言い、妙に言動が仰々しいんだけど……。ここって劇場だったのかな? って、こんな時なのに、変なこと考えちゃった。
「とぼけるつもりなら教えてやろう! お前が『悪役令嬢R』だからだ!」
パシャ。
ロードリックさん、余韻を残そうと思ったのかな。台詞の後に、十分な間を置こうとしたらしかった。
でも、上手くいかなかった。水滴が落ちるみたいな音が、それを邪魔したから。……って言うかこれ、シャッター音だよね?
パシャ、パシャ、パシャ。
まずい! 皆、魔導書をこっちへ向けてる! シャッター音がうるさいんだけど!
「やめて! 撮らないで! 『MNSの書』をしまって!」
私は思わず叫んだ。でも、誰も聞いてくれない。いや、言うこと聞いてくれるって、期待なんかしてなかったけどね。
「見苦しいぞ、悪役令嬢Rめ!」
ロードリックさん、何でそんなに嬉しそうなの? 頑張って威厳のある顔をしようとしてるみたいだけど、笑顔が隠しきれてないよ。
「大人しく自分の罪を認めろ、悪役令嬢R」
「私、悪役令嬢Rなんかじゃないよ! ロードリックさん、何か誤解してるんじゃないの!?」
もう皆を止めるのは無理そうだったから、私はロードリックさんの勘違いを訂正する方に力を入れることにした。
「悪役令嬢Rって、あれだよね? よく炎上騒ぎを起こしてる……。まさかロードリックさん、あの噂、本気にしたの!? あんなの、たちの悪い……」
「言い訳するな! 誰かこいつをつまみ出せ!」
壁際に控えていた、ロードリックさんの家の使用人たちが飛んできて、私の腕をつかんだ。
「やめて!」
ちょっと、痛いじゃん! 私は叫んだけど、聞き入れてもらえなかった。ここはロードリックさんの家だから、使用人たちも彼の命令に従わないといけないんだろう。
私は扉の向こうに放り出された。
パシャ、パシャ。
追いかけてくるのはシャッター音と、広間に集まった人たちだ。
「リタ、コメントちょうだい!」
「もっと悔しそうな顔しろ!」
「これはかなりシェアされるぞ……!」
こ、この人たち、私の身に起こった悲劇を、『MNS』に載せるつもり!? 早く逃げないと、えらいことになる!
私は慌てて回れ右した。なんか、いかにも『敗走』って感じの展開で、正直に言って気に食わないけどしょうがない。
逃げる途中、ロードリックさんがこっちに、『MNSの書』を向けてるのが目に入った。
その顔はとても晴れ晴れとしていて……まるで、これから勲章をもらう予定の人みたいだ。
そんなロードリックさんに対して、私は心の中で、後で覚えてなよ! と罵ることしかできなかった。
※この小説は、とびらの様の『あらすじだけ企画』参加作品、『悪役令嬢は『いいね』が欲しい! ~炎上アカウントの中の人だと誤解を受けて婚約破棄された令嬢が、平民のフォロワーと二人三脚でインフルエンサーになるまで~(短編化)』を長編化したものです。ですが、企画参加作品とは内容に異なる点がありますので、ご了承ください。




