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007 チート能力者はきっと格ゲーでもトレモで練習するタイプが多いと思う

「じゃあ、あの人達は森へ?」

「うん、確認してくるって」


 姉ちゃんの目が覚めたのはしばらくしてからだった。

 いなくなった二人のことは誤魔化せたが、このまま森の前にいるわけにもいかない。

 繋がれた馬も不満そうに先程から地面を掘り返している。

 馬車の上で二人並んで、ただ流れる川と雲とを眺めていた。



 さて、これからどうしたものだろうか。


 ロウ・リメイカー。


 あの神様曰く世界改変の出来るチート能力。

 赤ん坊を成長させ、物理法則を捻じ曲げ、物質を変容させ、力を増幅させる。

 使用に関して魔力だかMPだかが減ったり、取り返しのつかないことが起きるデメリットもない。

 ……まぁこれに関してはまだ信用しきれないが。

 とにかくおおよそ考えつく限りのことは出来そうな能力。


 姉ちゃんが寝ている間、色々と試してみたがわかったことは一つ。



 神様の使()()()()()()()という言葉の意味だった。



 もっと体を成長させてみる。

 石を投げて木をすり抜け奥の木に当てる。

 硬そうな岩をバラバラに砕く。

 石を投げて当たったものを遠くに吹き飛ばす。


 どれもできなかった。

 もしかしたら回数制限やMPなんかが足りないのかも知れないが確かめるすべはない。

 他にも色々やってみたが、力が発動した時のような魔法陣が出てくることはなかった。


 ただ、神様の言葉を信じるのであれば『真剣に、心から望み、それを実行』する必要があるらしい。

 覚悟が完了してたり、死ぬ気の炎を灯したりしないといけない、のではないか。


 つまるところ、気軽に試せるようなものではなさそうだった。

 万能ではあるが、あまりに確実性に乏しい上、どこまでコントロール出来るかもわからない。

 いつまで効果が続くのか、あるいは出来ないこと、出来ることの境界はどこなのかも不明だ。

 なので、出来るだけ使わないように、姉ちゃんにバレないようにしたい。



 そんなわけで、女たちは森に入ってしまったと伝えてある。

 しばらくしたら一度戻ろうと、馬車を走らせて少しでも元の村に近づく。

 馬車で何時間走ったか分からないが、半日は経っていないはずだ。

 馬車で帰れれば御の字、ダメでも歩けば夜には着ける……と、思う。


「あのお姉さんたち、大丈夫かな……いい人たちだったし、心配だね」


 全然いい人ではなかった、心配しても無駄である。

 とはいえ真実を告げることは出来ないので、そうだね、とかなんとか曖昧に答える。


「もうそろそろお昼になるし、私たちも森の中入った方がいいかな?」


「だ、ダメだよ! ほら、もしかしたら別の用事で遅れてるのかも。

 一度村に戻るのはどうだろう。ちゃんとしつけられてる馬みたいだし、これなら……」


 納得がいかないようで、姉ちゃんは立ち上がる。

 下手に森に入られると困るのだが、無理矢理引き止めることもできない。


「でも、ずっとここにいたらろーくんも馬も倒れちゃ」



 ギャア


 と、動物の声が上がった。

 同時に姉ちゃんの体もびくりと飛び上がる。

 音のした方を見れば鳥……鳥かな……たぶん鳥っぽいものが飛び去るところが見える。

 姉ちゃんはそっと腰を下ろして、また二人並んで座る。


「あと少し待ってみて、戻らなかったら、一旦帰ろっか」

「そうだね」


 気丈に振る舞っていても、まだ幼い子どもである。

 そんな姉にときめき、少し邪な感情を抱いてしまうあたり自分に幻滅するが。


 突然、馬がいなないた。


「伏せて!」


 姉ちゃんの肩を掴んで床に伏せる。

 野犬、あるいは熊でも出てきたか。

 馬車から身を乗り出して、そっと森の方を見る。


 特に何かがいる様子はない。

 目を凝らしても、興奮し始めた馬以外の姿はない。

 さっきの鳥の声に驚いただけなのか、それともストレスで暴れたくなっただけか。


「ちょっと馬が暴れてるみたい。一旦降りたほうが良さそう」

「喉が渇いたのかも……川で水を汲んでくるわ」

「あ、待って、俺も!」


 慣れているのか、姉ちゃんはスカートを翻してさっと馬車から降りた。

 それに続いて俺も両足で地に足を着ける。いまいち慣れない。


「あ、バケツを忘れて……」


 振り返った姉ちゃんが固まる。

 そんなに馬が暴れてるのかとつられて振り返り、固まった。



 巨大な翼、うねる艶めいた尾、鋭く灯る赤い眼光、太陽を反射して刃物のようにギラつく牙。


 馬車を引いていた馬の下半身がその場に倒れる。

 残りの半分は ごくり、と赤い口の中に呑まれていった。

 突然現れた巨大なそれは肉食獣を思わせる四足で立っている。

 こちらを見つけると全身の黒い鱗が逆立ち、辺りを纏う空気が変わる。


 血の臭いと、舞い上がる土の臭いが鼻をつく。



 翼を広げ、竜が吼えた。



「にげ、にげないと……」


 ぺたんと隣で尻もちをつく。


「姉ちゃん!」


 手を引くが、自分では立ち上がれないらしい。

 背負おうともしたが、動けない相手を運ぶのはこの体では無理そうだ。

 このままでは二人とも食われる。

 ついさっきのことだが、やはり隠し立てするわけにはいかないか。


 覚悟を決めて、竜を睨む。

 力を使うなら、出来るだけ具体的に頭に浮かべる。

 剣を投げた時、女を砕いた時、男を吹き飛ばした時。

 イメージが明確なら、相手のサイズなど関係ない……はずだ。



 足元の石を拾って、狙いを定める。

 頭か心臓か、まぁ狙うなら頭だろう。


 "当たって"、"砕ける"。


 それを強く思い描く。

 同時に空中に光る魔法陣が現れる。

 どうやら、上手くいきそうだ。



「当たって……砕けろ!!」


 全力で小石を投げる。

 魔法陣に吸い込まれるように飛んでいき、それはまっすぐ竜の頭へと――



 当たる寸前、空中に描かれた黒い魔法陣にぶつかった。


 黒い光は石と一緒に粉々に砕け散る。



 ほら見ろ、だからよく分からんものに頼るのは嫌なんだ。


 竜はじっとこちらを見る。


 距離は10mと離れていない、飛びつかれれば避けられそうもない。


 竜は牙の間から血を滴らせながら、ゆっくりと口を開けた。



『先の供物を設けたるは……主か?』



 喋った。




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