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003 小さいお姉ちゃんは好きです。

 ひとまず父親の服を借りた。

 ぶかぶかで汚れた、よれよれの服だが裸よりマシだろう。

 俺と姉ちゃんはお互いの無事を確認した後に両親を探した。


 家の裏手、男たちが入ってきたところに二人は倒れていた。

 胸を一突き、すっかり冷たくなっていた。

 二人で家の中に運んで、毛布をかけてやった。


 逃げた男はその先に倒れていた。

 俺が投げた短剣が見事刺さっていた。

 こっちはそのままにして、家の中のもう一人を外に運んで並べた。

 これは一人でやった。


 姉ちゃんは両親の前で泣いていた。

 無理もないだろう、自分の両親が殺されたのだ。

 こんな幼い少女が親を失くし、どうやって生きればいいのか。


 まぁ、それは俺も同じなわけだが。



 ひとしきり泣いて空が白む頃、姉ちゃんは落ち着いたのか、こちらに振り向いた。


「あの……ろーくん、なんだよね?」


「うん、そう……なんだけど……」


 説明したいが自分でもなんだかわからない。

 流石に転生したおっさんだよとは言えないし、気合で成長したと言っても信じないだろう。

 いくつか言い訳を考えてみるが、上手く思いつかない。


「ねぇろーくん」


「なに?」


「さっきは、助けてくれて、ありがとうね」


 彼女も混乱しているだろう。

 心細くて不安でまだ泣きたいだろう。

 それなのにまだ俺を弟として心配してくれている。

 彼女を、血が繋がっているわけでもない俺を大事にしてくれた彼女をだ。

 これ以上騙し続けていいだろうか。


「あのっ……こんなの、信じられないと思うけど」


 言ってしまおう。

 彼女を傷つけないように、一つ一つ言葉を選びながら。


「実は、俺……神様に、呼ばれたんだ、この世界に」


「かみ、さま、に……?」


「自分でも、なんでかはわからないけど……

 た、たぶんこうやって、姉ちゃん助けるためだったんじゃないかって」


 ちゃんと喋れる。

 生後一年でこれなら十分ではないか。



「そっか、ありがとう」



 おや。

 思ったよりリアクションが薄い。


「あの、それだけ? 驚いてない? 怖くない?」


 あまりに薄味だったので聞き返してしまう。

 ここは拒絶したり怯えたりしちゃう展開ではないのか。


「驚いてはいるけど……怖くはないよ。ろーくんは、優しいからね」


「ええと……自分で言うのも変だけど、ただの赤ちゃんだったよ?」


 泣いて、漏らして、寝ていただけの普通の赤ちゃんだった。

 少なくとも姉ちゃんの着替えを覗こうと必死に這いずり回った時以外は。


「ううん、すっごくいい子だし、優しい子なの、わかるよ……お姉ちゃんだから」


 泣き腫らした目を細めて笑う。

 自分も辛いだろうに、俺の頭を撫でてくれる。


 守りたいこの笑顔。


「……どういうことだいこりゃ」


 入り口から声、そちらを見ると、女が立っていた。


「……誰ですか?」


「お嬢ちゃん、この家に赤ん坊、いなかったかい?」


「……何の、用ですか」


 あの男たちの仲間だろうか、女は俺のことを探しているようだ。

 とは言え、突然これだけ育ったのは知らないだろうし、想像もつかないだろう。


「……私は、とある貴族に仕える者だ。半年前に赤ん坊を預けた人間、といえばわかる?」


「じゃあ、ろーくんの本当の……?」


「ああそうじゃない。私は頼まれてこの家に子供を預けて、様子を見に来たんだ」


 この声にはなんとなく覚えがある。

 馬車で俺を抱いていた誰か、その声に似ている気がする。


「連れ戻しにきたってことですか……?」


「違う違う。本当に様子を見に来ただけだよ。

 そうしたら家の前に死体があって、中に入ったら子供しかいない。

 どうしたんだろうと思って声をかけたんだ。あいつらの子供かい? あの酒飲みは?」


「……」


 黙って部屋の隅を見る。

 女はすぐに察したようで、目を伏せて頭を振った。


「悪いね、もっと早く来てたら……」


「あ、いえ、そんな……」



 さて、困ったことになった。

 どうやらこの人は俺にとっては味方側らしい。


 しかし、今の俺はあの男たちを倒せるレベルまで、10年ほど成長している。

 正直に話しても信用されるか分からない。

 それに、一度捨てられた身だ。

 今更どうして様子を見にきたのだろうか。


「……赤ん坊は、あの子はさらわれました」


「ろーくん?」


「姉ちゃん、俺に任せて」


 ここは、この人を試す。


「両親を殺した後、男たちは赤ん坊をさらっていこうとしました。

 だけど、仲間割れしたみたいで、あの二人が殺されたんです。

 俺と姉ちゃんは、隠れていて見つからずに済んだんです……ごめんなさい」


「そうかい、公爵様が予想してた通りになったんだね……」


「俺たちは、詳しい事情は知らないですけど、何かお手伝いできませんか」


 どうやら貴族絡みらしい。

 うん、政治がどうとかってありがちだからね。

 とはいえそういう知識に明るいわけではない。

 少しでも情報が欲しいのだ、こういう話は引っ張れば引っ張るほどこじれる。


「……そのさらっていったやつの顔は覚えてるかい?」


「暗くてはっきりとはわかりません。でも、直接会えば」


「わかったよ。どうせ両親がこうなって困ってるんだろう?

 私としても手がかりはあんたたちだけだからね、ついておいで」


 話がわかる人らしい。

 姉ちゃんに目配せすると、少し戸惑ってはいたが、意図を理解してくれたらしい。


「いこう、ろーくん」


 手を握られた。

 俺が赤ん坊であった時と変わらないぬくもり。

 こんな状況であっても、やはり彼女は俺の姉ちゃんでいようとしてくれる。


 手を握り返して、女の後に続いて外へ出る。

 家の前には馬車が停まっていた。

 物見には男が一人、たぶん、ここに来る時に乗っていたものと同じなのだろう。


 俺たち姉弟は、馬車に乗り込み、育った家を後にした。



「ところで何か持ってくるものはなかったのかい?」


「あ、その……貧乏なので」


「……悪かったね」


「いえ……」



 毛布は持ってくれば良かったかも知れない。

 あれは確か前の家にいたときからかけてもらっていたものだし。

 そんな思いと裏腹に、馬車はゆっくりと進み始めた。

 ゴトゴトと響く振動は、確かにあの時と同じようだった。


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