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002 神様は乗り越えられる試練しか与えない

 俺は里子に出されたらしい。

 新しい俺の両親は、まぁ……なかなかひどかった。


 父親はいつも酒を飲んで管を巻いていた。

 俺に近寄ろうともせず、母親に大声を出していた。

 今まで住んでいた家はとてつもなく清潔な環境なのだと思い知った。


 母親はだらしがなかった。

 態度も、声も、だらしない。目が見えるようになって体もだらしないのがわかった。

 今まで接してくれた両親や世話役はとてもまめだったと思い知った。


 そして、どうやらお金をもらって俺を預かったらしいと知った。

 俺が絶望するには、もうこれで十分だった。



 だが、神は俺を見捨ててはいなかった。



「ろーくん、ごはんの時間だよ」


 この家には、天使がいたのだ。

 両親からは想像も出来ないほどに優しく、気がよく、なによりかわいい少女。


 彼女が俺の義姉(ねえ)ちゃん、チィ・リクオン。

 長く伸びた黒い髪と愛らしい目つきの黒い瞳。

 年齢は小学生低学年ほど、学校があるかどうか知らないが、毎日家の手伝いをしていた。

 その手伝いには、俺の世話も含まれているのだ。


 このひどい環境の中、彼女だけが俺の癒やしであった。

 父親の酔っ払って出す大声、母親の癇癪、そして姉ちゃんの愛情。



 半年間、俺が1歳になるまでの日常はそれだけだった。


 もちろんその間、俺はただ赤ちゃんライフを満喫していたわけではない。

 家の中に散らばった本を読み言語を学んだ。

 とはいえ全部で3冊、図がメインの料理本、それと聖書のようなものが2冊。

 料理本は簡単すぎる、聖書は難しすぎる、学習は困難をきわめたが、時間はあった。


 分かったことは、この世界の料理はけっこう雑ということ。

 食材自体は地球と似たものがけっこうあるということ。

 父親が信仰しているのは一神教の宗教であるということ。

 そして、その神様からもらった魔法が存在しているということ。


 というわけでこの一ヶ月ほど試してみたが、残念ながら魔法は使えなかった。

 家族の中に出来るものがいなかったし、一部の人間しか使えないもののようだ。



「はい、あーん」


「あー」


 離乳食を食べながら、思案にふける。

 とはいえ、急ぐ必要もあるまい。

 両親が仕事をしてるかわからんが、本当の親からお金をもらっているらしいし、食事に困ったことはない。姉ちゃんは忙しそうだが、幸いにも家庭内暴力はない。

 幸せいっぱいでもないが、地獄でもない。

 今食べてるこの味のしないおかゆのような、そんな生活でもいいかも知れない。


「ここか?」


「そのはずだ」


 で、早速そんな生活に変化が起きてしまった。

 突然家に二人のローブを着た男たちが上がり込んできた。

 見るからにガラが悪い。今まで客もほとんど来なかったらそれでもない。


「あ、の……どちらさまですか?」


「ん? ガキは赤ん坊って話じゃなかったか?」


 怯える姉ちゃんにすごむ二人組の小柄な方。

 強盗かと思ったが、それにしては小奇麗な衣装が目につく。


「この家の子供だろう。処置は同じだ」

「さすがに少しやりにくいな」

「あの……」


 小柄な男が腰から短剣を抜く。

 刃にべったりとついた血が、先から滴っている。


「ひっ!?」


 俺を抱いたまま、後ずさりする。

 男たちは家の入口、部屋の奥のここまでは大人の足で10歩ほど。

 一歩、男が足を進める。


「お、お金なら渡します! こっ、この子は……!」


 壁にぶつかる。それでも俺のことを強く抱きしめてくれている。

 こんな時のためのチート能力ではないのか!

 なにかもらっておけばよかった!


「悪いが俺たちの目的はその――」

「おい、余計なことは喋るな」

「おっと」


 ていうか俺狙いだった!

 あーやっぱりそういうやつか!

 たぶんあの神のせいだよね、こういうめんどくさいのに巻き込まれるように仕組んだよね!?


「……っ! 助けてください、神様……っ!」


 姉ちゃんの声が聞こえる。

 あんな神様にも必死に祈る声。

 普段、俺に語りかける姉としての声でなく、年相応の幼い声。


 こんな声は聞きたくない。

 大事な(義理の?)家族だから、というのもある。

 だが、それ以上に、染み付いた、拭っても拭っても消えない、俺の――



 性癖(たましい)が叫んでいる。



「魔法陣……魔法だと!?」



 せめてもう少し、成長していれば。



「この子供か……い、いや違う!」



 あの時、あの子を助けた時のように、動いてくれる体があれば。



「くそっ、さっさと死――」



「ろー、くん……?」



 飛び出していた。

 男の手を掴んでいた。

 男の顔には驚愕が張り付いている。


「な、なん……?」


 力を込めて腕を返し、胸に向かって突いた。

 ずぶりと肉に刺さる感触がする。


「がっ……!?」

「く、くそっ……こんなバカな……!」


「あっ」


 もう一人の男が踵を返し、一目散に逃げる。

 追いかけるべきか、でも姉ちゃんを置いていくわけにもいかない。

 とっさに刺さった短剣を引き抜いて、投げる。


「あ、たれぇっ!」


 投げる瞬間、空中に光る魔法陣が浮かぶ。

 短剣はそれに吸い込まれるようにして飛んでいき、外で小さな悲鳴が上がった。

 いつの間にか魔法が使えるようになったのだろうか。

 これが神様の言っていたチート能力か、それっぽい。

 そうでなければ赤ん坊の俺がこんなこと出来るはずが……


「あれ?」


「ろ、ろーくんなの……?」


「ねえ、ちゃん……?」



 いつもと目線が違う。

 見上げているはずの姉ちゃんと目が合っている。

 自分の体を見る。


 裸だった。


 姉ちゃんと同じくらいか、それくらいの男性……少年の体がそこにあった。


「あ、えっと、これは……」


 どう説明すればいいのか。

 そもそも自分でもわからないから説明しようがない。


 とりあえず足をそっと閉じて大事なところは隠す。

 いや普段から見られまくってはいるけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。


「け……けが、してない?」


「うん、姉ちゃんは?」


「私も大丈夫……」


「よかった……」



 まぁ、どうやら助かったらしい。


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