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015 王子の出発

「じゃあいってらっしゃい」


「うん、行ってきます」


 あっという間に決まった魔王退治へ向かう日の朝。

 俺は姉ちゃんが付いてこないようどう説得しようか頭を悩ませていた。

 だが、意外なほどにあっさり了解され、こうして送り出された。


「……付いてくるって言うと思ってたから」


 姉ちゃんは額に手を当てて考える素振りをする。かわいい。


「最初は、よくわからなかったけど。

 ろーくんがほんとにおっきくなったみたいだからね。それに――」


 また少し考える。

 どうやら嫌われたわけではないようで安心する。


「新しいおうちに変わるなら、色々と準備しなきゃでしょ?」


「……そうだね」


「あと、メビウスさんにも色々、心配しなくていいって言われたから」


「めび……ああうん、戦士長さんね。わかった」


「だから、いってらっしゃい。危ないことは……あんまりしちゃだめだよ?」


「うん、行ってきます」



 そんなこんなで一晩を過ごした豪華な部屋を後にした。

 あくびを噛み殺しながら後ろを付いてくるリズと城の門に向かう。

 待っていたのは、先日と同じように馬車の前でパイプをくわえ待つ男。


「おはよう、眠れたか?」


「まぁ、それなりに」


「馬車じゃあんまり眠れないからな、ある程度は我慢してもらうぞ」


「わかりました」


 王国の戦士長、メビウスというこの男はパイプをくわえたまま積荷を確認する。

 見えたところではほとんどが食料のようだ。武器らしきものはない。


「武器はないんですか?」

「急いだからな、南の……魔王島に行く港の前の町で用意する。

 まぁ途中で盗賊にでも会ったら、そんときゃ俺がなんとかするさ」

「魔物とかは?」

「そりゃたぶん無いな」


 無い、とはどういうことだろうか。

 ドラゴンやら魔王やらがいる以上、そういうのが出てきそうではある。

 移動ルートには出ないということなのか。


「知らないか? 魔物はそもそも数が少ない。

 魔王が現れると増えるらしいが、それ以外なら王国内でも月に一匹見つかるかだ」


「でも魔王が復活するとかって言ってなかったですか?」


「それもそうか。とは言え一人二人でなんとかなるとは限らんからな。

 もしもの時は全力で逃げる。俺が戦士長になったのはそうして来たからだ」


 わははと笑うがこいつに命を預ける身としては不安である。

 魔物なんか出てきても楽勝、というよりはマシだが。


 しばらくして積み荷の確認が終わり、馬の用意も終わる。

 準備万端出発、というところだが、人を待っているらしい。

 なんでも、出る前にどうしても必要なものがあるという。

 いくつか積み荷の中身を教えてもらっていると、待ち人が来た。


「すまない、待たせたかな」


 昨日の学者風の男だ。名前は忘れた。

 今日も懐に巻物を抱えている。

 そのうちの一つを取り出して、戦士長へ渡す。


「これは通行証。臨時発行だから無くさないでくれよ」

「わかってるって」

「あとこれは、君……あいや、王子に」

「昨日と同じでいいですよ」

「そう? じゃあ、はいこれ」


 俺に渡されたのは、巻物が二つ。


「そっちの赤い紐の方は昨日の魔法陣の写しだ。

 魔法の適正とか能力とか調べてたんだが特殊みたいでね……

 まったく分からなかった。何か手がかりがあったら教えてほしい」

「……はぁ」


 学者が調べて分からなかったものが俺にわかるのだろうか。

 なんかすごい現代知識があればわかったかも知れないが、そんなものはない。

 やはりスマホでも持ってくるべきだったか。


「もう一つ、その黒い紐の方は、お守りだ」


「お守り?」


「紐を解くと魔法が発動するんだ。

 どんな魔法かは秘密だけど、危なくなったら使ってくれ」


 ニコニコと笑っている。

 普通こういうものほどしっかり説明すべきじゃないか。

 聞いてみたが、危ない時に使えばわかる、としか教えてくれない。

 諦めて二つの巻物を持って、馬車に乗り込む。

 見送りはこの男と城の門番二人だけで少々寂しい。


「じゃあ気をつけて、王子様。何かあったらそれを使うんだよ」


「わかりましたって」


「じゃ、さっさと出発するか。日が昇りきったら馬も疲れるからな」


「行ってきます」


「ああ、いってらっしゃい」



 馬車は城を出て、来た時とは別の方角へ進む。

 王都の賑やかな町並みを抜けて、城壁の外に出ると川の音が聞こえる。

 海まで続いているのか、川に沿って平野に道が続いている。


 柵で囲われた土地がいくつもあって、農業か畜産をしているらしいのが見て取れる。

 思ったよりも牧歌的。しかし、それほど文明が進んでいるわけでもない。

 男の話を信じるなら、魔物が襲ってくることも少ない。

 単純に発展途上なだけなのだろうか。


「畑ならお前の村にもあったろう?」


「いや、平和なんだなぁと思って」


「平和……そうだな、今はな」


 男の声が低くなる。

 地雷案件だったか、これ以上は言うまい。


 仕方なくまた外を眺める。

 川、平野、畑、たまに鳥、林、森、木、木、木……俺の基準で言えば田舎。

 これが王都なのだから他のところはどうなるのか。

 いささか不安ながら、始まったばかりの魔王退治に思いを馳せる。


 どうか、魔王が幼女ではありませんように。



「主、そろそろご飯じゃないか?」


「早いよ、朝ごはん食べて出たばっかだよ」


「パンだけでは足りぬ……」


「あんまり食うと吐くから我慢しろよ」


「ぬぐぐぐ……」


「服かじるのやめて」


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