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014 国王の依頼

「というわけで、王子よ、君には魔王を倒してもらいたい」


「……あの、えっと……」



 いま俺の目の前には王様がいる。

 頭には王冠、赤を基調とした豪華な衣装。

 思ったよりも若いこと以外は概ね想像した感じの王様であった。


 その王様が挨拶もそこそこにこう言ったのだ。

 魔王を倒してこいと。


「い、いいんですか? 自分で言うのもなんですが怪しくないですか?」


「なに、見ればわかるとも。その目とその髪は間違いなく王族のもの。それに……」


 どうみても厄介事を押し付けたさそうにしている。

 さっきの男も、姉ちゃんたちと一緒に端っこで黙っているだけ。

 やはり何か騙されてしまっているのでは……


「うむ、まだ不安だというなら魔王島へと行くがいい。それがいい」


「ま、まおうじま……?」


「前回の魔王を倒した武器がそこに残されていてな。

 その武器が扱えるのは救世主だけ、これ以上ない証明になろう」


 先程から王様は自分の中で話が完結しているらしく、何も聞いてくれない。

 このままでは本当に魔王討伐とやらをさせられかねない。



「あの……俺がその救世主だったとして、見ての通りまだ子どもですよ?」


 成長したとはいえ、姉ちゃんと同じくらい、10歳前後の子どもだ。

 確かにそれくらいで世界を救ったやつもいる。

 実年齢数カ月で世界の危機を防いだやつもいる。

 ん……そうするとおかしくはない、のか?


「魔王なんて倒せると思いますか?」


「それなら問題ないとも、前回の救世主もまだ幼い少女だったと聞いている」


「お、おお……児童労働……」


「とはいえ一人で行けとは言うまい、戦士長を護衛につけよう」


 王様の視線の先には、俺たちを連れてきた男がいる。

 やっぱりそこそこ偉いやつだったらしい。


「それと君の兄弟……いや、預けた家族か? あの子たちは王都に住居と世話役を用意しよう。

 他に何か望みたいことがあれば、なんでも言うといい。王家からの援助は一切惜しまぬぞ」


 もう怪しさが限界突破してきたけど、今、この人はなんでも、と言った。

 それなら――


「俺……私の、本当の母親に会えませんか」


 乗せられている自覚はある。

 だけど、最初の目的である母上に会えるかもしれない。

 それなら、母上のため、姉ちゃんのために魔王とやらと戦ってもいい。


「ああ、構わんが……戦士長、どこまで話している?」

「仔細は伝えておりません。王都から遠ざけられたとしか」

「そうか……では、ロウ王子よ。そなたの母親についてだが……」


 馬車でも話していた俺の出生がワケアリだということ。

 最悪のパターンとしては体の弱い母上が亡くなった、だが。

 王様は咳払いをしてから続ける。


「ルジェ公爵家の……侍女だ」


「あ、えっと、それは……」


「あまり大声を出すでない」



 俺の母親はとある貴族の侍女という、その顛末はこうだ。

 元々はその貴族の令嬢が救世主の母となる、つまりは王と交わり子を産むはずだった。

 しかし聖母の儀……要するに子作り予定日の少し前に妊娠が発覚。

 家族にも隠れて出来た子だったそうで、それはそれは揉めたらしい。


 それでも王族直系の子を作る機会を逃すわけにはいかないと貴族は考えた。

 結果が、令嬢付きの侍女を替え玉とすることだった。

 子が生まれたら取り替えてしまえばいいと。


 だが、運悪くその企みが発覚、子を宿せなかった別の貴族の密告だという。

 王国は侍女を母親として迎え入れようとしたところ、貴族は子どもを外へ隠した。

 根回しが済めば俺を貴族の子として、ダメなら殺して令嬢の子を王子と偽ろうとした。

 しかし既のところで……いや微妙に遅かったが、察した王国が俺を保護しにきた。



 ……というわけらしい。

 本来は平民との子は表に出さないが、救世主になる可能性がある以上は捨て置けない。

 そういった事情もわかったが、俺にとってはそんなこと重要じゃない。

 大事なことは一つだ。


「……なんとなくはわかったんですが、結局母親とは会えますか?」


「それなんだが……」


 男に目配せをし、頷くのを見て王は続けた。


「赤子……君が連れ去られた後、行方が知れぬのだ。子どもを探しに行ったか、あるいは……」

「陛下」

「ん、んむ、我々も探しているのだが……無論、見つかれば保護し、必ず会わせよう、必ずだ」


「そう、ですか……」


 ここまで調子よく進んでいた、その反動だろうか。

 希望はある、あるが、これまでのようないきあたりばったりでは手遅れになるかも知れない。

 自分たちだけで探すのはやめて、この王様に協力するのは十分アリの選択肢だ。



「わかりました。やりましょう、魔王退治……! でも」


「無論、褒美は十分に、すぐには無理だが王位も……」


「母上を探すことも手伝わせてください。俺をここに遣わせてくれた、大事な人です」


 思わず身を乗り出して答える。


 あの温もり、あの声、そしてあの……小さな……



「大事な!! 人なんです!!!!」


「う、うむ。人手を増やして当たらせよう」


「どうか、どうかよろしくお願いします!」


「お、おお、任せておけ」



 さて、これで当面の目標が定まった。

 王国とやらの助力も得られるらしい。


「では王様、魔王退治……島でしたっけ? そのイベント、進めちゃいましょう」


「ん、いべ……? ま、まぁ承諾ということだな。

 そうだな、旅支度と供を準備しよう。すぐにとはいかんが、三日程度で……」


「供は道案内が出来る者だけで結構です。明日にでも出発したく」


「気が逸るのは分かるが流石にそういうわけには……」



 背後で靴音が響く。

 男が俺の隣へと歩み出て、王の前に一礼する。


「では私が行きましょう。道案内兼護衛としては適役かと」


「ぬ……しかしまた戦士長が不在、しかも長期となると……」


「王都の戦士団ならば私抜きでも問題ありませんとも。

 それに貴族の騎士団、他国からの応援も滞在中。旅路は一月半、遅くとも二月です」


 目的地は思ったより遠いのだろうか。

 馬車の移動速度がよくわからないが、軽い旅支度で行く距離ではなさそうだ。

 だが、男は……戦士長とやらはこちらに目配せして、任せろと目で語りかける。


「陛下、魔王降臨の時は近づいております。一刻を争うのです」


 膝を付き、頭を垂れる。

 王様はしばらく考え、んむんむと何度か唸った後、首を縦に振った。


「明日までに支度を整えさせよう、戦士長も付き合ってもらうぞ」


「仰せのままに」


「で、君……王子たちは……ひとまず離れで一晩過ごしてもらう、ということでよいか?」


 王はなんだか申し訳なさそうに聞いてくる。

 しかしこの半年ボロ小屋で育ち、この数日ほぼ野宿の俺たちにとってちゃんとした寝床なら上等。

 なんなら馬小屋でも構わない。

 馬小屋で寝たことはないが。



 承諾した俺たちは現れたメイドさんたちに離れへと連れて行かれ、


 めちゃくちゃ豪華な部屋で一晩を過ごすことになった。



「見てみてろーくん!!! べっど! ふっかふかだよ!!!」


「ぬしー! この寝床はねるぞ!! うはははは!!!!1」


「なぜ、なぜ一部屋にベッドが3つも4つも……!」



 この姿になって初めて、極めて文化的な一晩を。


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