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011 転生は二度目の人生かも知れないが別の世界へ行ったのならばそれは強くてニューゲームではなく別のゲームをプレイするようなものではないだろうか

「ねぇ見て、星がすごい」

「うん、綺麗だ」



 馬車の荷台を改造した即席のイカダは川の流れに任せてゆったりと進んでいく。

 異世界というくらいだからとんでもない魚や何かが出るかと思っていた。

 時折小さな魚が跳ね、虫があちこちを飛ぶ、それだけだった。

 つまりは元の世界と大きな違いはない。


 川だけではない、夜空もそれほど違いはなかった。

 流れる雲、欠けた月、散らばる星。

 星座も探してはみたが、これは似たようなものは見つからなかった。



 さて、これからどうしたものか。

 生前読んだものを思い返して参考にしようか。

 まず思い浮かぶのは魔王を倒す王道ファンタジー……保留。

 そもそも魔王とやらがいるのか知らないし、俺の能力は全能かも知れないが、不安だ。



 いっそのこと、田舎に引きこもろうか。


 このまま姉ちゃんと村でスローライフというのはどうだろう。

 隣で寝息を立てて寝ているリズというドラゴンもいる。

 モンスターやらなにやらを従えて農耕生産内政チート、なんてのもありだ。

 が、往々にして快適さを求めると衝突が生まれる。

 村でハブられるだけならいいが、やりすぎるとお国が介入してくるだろう。



 そういえば俺が王子らしいということもある。


 だったら、王都へ行って成り上がる、のもありか。

 いきなり成長してることがネックだが……

 体に王家のあざとか、王族だけが持つ瞳の色だとか、とてつもない魔力だとかがあるだろうか。

 水面に映る俺の顔は彩度の薄い茶髪と黒い瞳。どちらもほんのり赤みが混じっている。

 気品ある顔かは分からないが、昔の顔とは違う。



 この顔ならば、女性と付き合うのもありだろうか。


 ハーレムモノ、そんなのもいいかもしれない。

 俺のストライクゾーンが狭すぎるのが少し不安だが、選択肢には入るだろう。

 いざとなればリズのように好みの年齢までしてしまえば……

 それはそれで問題があるような気もする。



 じゃあもっと、己の欲望に忠実になるか。


 例えば最強を目指すのもありといえばありか。

 強くなればあの時や今のように人を助けられるようになるだろう。

 もっと多くの人を助けられるかも知れない。

 まぁ、今のところは姉ちゃんだけ助けられれば……



「母上!!」



「ひょえ!?」


 あやうく忘れてしまうところだった。

 この世界で最初に俺に愛を与えてくれた人。

 無償の愛を与えてくれた、最初にして最愛の人。


 母上。


 もちろん姉ちゃんも同様に大事な人だが。

 最後に会った時から半年、特に今日はあれこれとあって思い出せなかった。

 そうだ、そうだった。


 俺にもある、やりたいことが。

 やらなければいけないことが。



「姉ちゃん」

「どうかした?」


「……俺は母親に会いに行こうと思う」


「うん、いいと思う」



 あっさりとオーケーされた。

 

「いいの?」

「だってあの女の人も言ってたでしょ?」


 そう言えばそうだった。

 なので、もう一度言い直す。


「えっと、あの人は別にして、俺と姉ちゃん……あとリズ、で行こうと思って」

「いいと思うよ。私はろーくんについてくから」

「姉ちゃん……」


 姉ちゃんはにこりと笑って、俺の頭をぽんと叩く。

 やはり、姉ちゃんには敵わない。



 それから――



 本当に何もなく川下りは成功し、月がちょうど真上に上る頃に村の近くの岸へ流れ着いた。

 完璧な仕事をしてくれたバッシャー号だが、特に見せ場もなくこれ以上何をすることも出来ない。

 やはり水辺限定のやつはここらが限界だと、彼に別れを告げて未だ起きないリズを背負って夜道を歩いた。


 姉ちゃんは見覚えがあったようで、進んだ先にすぐに村が見えてきた。

 ほぼ一日で帰ってきた小旅行だが、どこか村の門が懐かしい。

 特に門番もいない。出た時と変わらない。

 村の中を歩いて、なんとなく見覚えのある家の前に着いた。

 我が家……? だと、思う。


 家に入ると、そこには両親の死体が――――


「おかえり、君たちここの人?」


 知らない男の人がいた。

 タバコのようなパイプをくわえ、口から煙を出している。

 父親でもないし、身なりからしてたぶんこの村の人でもなさそう。


「あの、どちらさま、ですか?」


 姉ちゃんが話しかけると、男はパイプを離して話し始めた。


「俺はメビウス、王国騎士ってやつだ」

「騎士、様……ですか!?」


 やっぱりそういうのあるのか。

 そして王国騎士ということはこの後の展開は。


「君たちが預かってた赤ん坊、どこにいるんだい?」


「たぶん信じてもらえないかもしれないですけど」


 前に進んで手を上げる。

 信じないならそれでいい。

 事情があると思われて同情されるのもありだ。

 とにかく、この男は王都へ行くための大きなチャンスだ。


 まぁ……二度あることは三度ある。

 また悪いやつという可能性もあるが。


「信じるとも。赤ん坊を狙って強盗でもきたか?

 あるいは公爵……どっかの貴族が連れて行くとでも言ったかな?」


「俺がその赤ん坊です。魔法……かなんかで、気づけばこうなってました」


「は」



 男は持っていたパイプを落とす。

 火事になると姉ちゃんが慌てたが、男はすぐにそれを拾った。

 俺をじっと見て、穴が開くほど見て、開いた口から声を絞り出す。


「君が? おう……赤ん坊だった? 魔法って、誰が?」


「前の両親はぼんやりとですが、ここに来てのことはよく覚えてます。

 魔法はたぶん……俺が使ったと思うけど、詳しいことはよくわからないです」


「ふむ、ふむふむ……その目……確かに王に似ていなくもない……嘘をついてる顔でもない……」



 男はうんうんと頷いて、俺の肩を掴んだ。



「信じる、信じるとも! というわけで俺と一緒に王都へ来い! いや、王都へ向かいましょう、王子!」



 さて、これは偶然なのか。俺の能力がもたらした出来事か。


 よく分からないがとにかく、俺の目標には近づいたらしい。


 そして、この男の煙の臭いがやたらと鼻についた。


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