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010 田舎の村でちまちましている一方その頃、王国では世界を危機へと陥れる大きな予兆が現れているのだったが、お姉ちゃんの膝枕以下の感想しかないので読み飛ばしても構わない話。

 少年と少女とドラゴン幼女が夕焼け空のもと、川を下っていく。


 時を同じくして、国境北端である黒き山から流れる川の先、夕暮れの闇を火が穿つ。

 長い城壁、広場の中心、そびえる城の天守閣、あちこちに灯る火が煌々と照らす。


「なるほど、これで(あか)の国か」


「あまり身を乗り出されると危ないですよ」


「この程度の高さなら問題あるまい」


「……この高さが問題ない……」


 その兵士は、天守閣から身を乗り出す客人の横でちらりと下を見る。

 思わず息を呑む。普通の人間ならまず助からない高さだ。


 王国の招いた客人の一人である男、その世話役を申し付けられた兵士は驚きつつ、自分の仕事を思い出す。


「食事の用意が整いました。こちらへ」


「ああ、夜景はまた食後に楽しむとしよう」



 赤い絨毯が続く城の通路を進むと、男の姿を見つけた少女が声をかけた。

 小さな剣を握ったまま、手を振って近づいてくる。


「ちょうどいいとこに、あたしも連れてってよ」


「迷っていたのか」


「広すぎるのよここ。巨人(ジャイアント)でも住んでるの?」


「建国王の頃ならばあるいはいたかも知れんな」


「何百年前の話よそれ」


「確か……200年前だったかな?」



 大きな扉の前で兵士が立ち止まる。

 取っ手こそ人の高さにあるが、見上げるほどの大きさだ。


「ご飯も巨人用のだったらどうする?」


「お前はその方がいいんじゃないか」


「そうだね!」


 兵士は扉に手をかけ軽く開けると、声をかけた。


「着きました。どうぞ、中でお待ちください。

 それと、申し訳ありませんが武器は預からせていただきます」


 兵士は男の腰に提げられた剣と、少女が持つ剣を見る。

 男は剣を外して、兵士に渡して声をかける。


「丁重に頼む」


「かしこまりました」


「それと……」


「ほらおにーさん、どうぞ」


「はい、お預かりを……」


 兵士が少女の剣を握った瞬間、腕が地面に引かれて倒れかけるが、男がその体を押さえた。

 驚いた表情の兵士と、その震える手を見て少女が笑う。


「あっははは! これこれ、こういうのが見たかったのよ」


「まったく……それは床に転がして置けばいい」


「は、はぁ……」



 二人が扉の奥に入ると、またも巨大で、豪華な広間であった。

 いくつも明かりが並び、昼間のように明るい。

 それに照らされて、二つの影が浮かぶ。


「遅いですよぉ?」


 机に足をかけ、若い男が口からパイプを離し、煙を吐き出す。


「それは?」


「ここの名産の一つだそうで、吸われます?」


「食事の前は控えた方がいいだろう」


「2回目です」


 向かいに座る男を見る。

 整った顔立ちの長身痩躯の男性は露骨に嫌そうな顔をしていた。

 男は、彼の隣に座り話しかける。


「やはりああいったものはお嫌いで?」


「時と場所と態度の問題ですよ」


「ごもっとも」


「ご飯まだじゃない、いつ出てくるのよ」


「もうすぐ国王が見られるのだろう、大人しく……来たようだな」


 若い男が机から足を下ろしてすぐに、二人が入ってきた方向と反対の扉が開く。

 豪華な身なりの気品ある男、見た目とは裏腹に力強い足取りの老人。

 老人がゆっくりと席につくと、男は座り、話し始める。


「この度は、皆さまお集まり頂き、大変……」


「王よ、挨拶など無用だ」


 老人が話を遮る。

 みな話は事前に知っているようで、驚く素振りも見せない。


「二度目の神託だ」


「英雄の神託の次だからどうせ魔王だろ? いいんだよもったいぶらなくて」


 若い男はまたパイプをくわえる。


「王や大臣ではなく我々が呼ばれたのです、分かっておりますよ」


 長身の男が笑みを浮かべる。


「そうそう、あたしたち契約者が呼ばれるなんて魔王かドラゴンが出た時でしょ」


 少女が食器をカチャカチャと鳴らす。


「時と場所、それを聞きに来たのです。英雄がここに現れた以上、手を貸さないわけにはいきません」


 男が睨む。

 王はびくりと体を震わせ、隣の老人に目配せをする。



「三月後だ」



 全員の表情が険しくなった。


「三月? 三年ではなく?」

「巫女7名、全員同じ内容を聞いている」


 長身の男が息を呑む。

 観光するつもりであったが予定を切り上げねば、そう、食事が終わればすぐにでも。


「場所は? いつもの魔王島? それとも竜の山? あたしんとこじゃないよね?」

「場所はここだ」


「ここ? やはり竜の山ですか?」


「グラナトロート王国、王都フォアロート。ここだ」



 全員が息を呑んだ。


「ってことは、王様抜きで俺らだけ呼ばれたのは……」


「ああ、しばらくここにいてもらう」


「……まぁ、別にいいか」


 若い男は身を乗り出すも、パイプを眺め、腰掛ける。

 声を上げたのはまた長身の男。


「国への伝令は?」


「契約者が揃った時点で行かせてある。早ければもう着いている頃だ」


「つまり、魔王が現れるまで我らは逃さない、そういうことか?」


「そういうことだ」



 男はしばらく思案するが、やがて深く息を吐き出す。



「最初から言えばいいものを、契約者と言ってもあなたのような人ばかりではないぞ」


「有象無象を何万集めようが意味はない。英雄に頼れぬ状況では契約者を是が非でも集めなくてはな」


「その点については同情する。念願の英雄誕生の神託からたった一年足らずとは」


「せめて10年……5年あれば違ったんだが……」


「あー! いいからご飯まだ!?」


 少女は我慢できなくなったのか、机に食器を突き立て吼えた。

 王は慌てて扉の向こうに声をかける。

 すぐに運ばれてきた色とりどりの豪勢な食事。

 グラスに注がれた美しい輝きに少女の目が煌めいていく。


「なに、お前たちには三月の間ここで贅沢な暮らしをさせてやる。今日の食事を味わって決めるといい」


「で、では僭越ながら、魔王討伐連合の結成と討伐成功を祈願し……」


「いーから早く食べよう!! いただきます!!! んー! おいしい!!!1」


 一目散に肉にかぶりついて、少女は顔をほころばせる。

 それを皮切りに挨拶もそこそこに食事が始まる。


 誰も口にはしないが、王と老人を除いてみな安堵していた。

 伝え聞いたあの災害が自国にはやって来ないと聞いて。


「そーいえばさ、じーちゃんは魔王と戦ったことあるんでしょ? 伝説ってほんとなの?」


「ん、そうだな」


「魔王島みたいに周りがぐっちゃぐちゃになって、普通の動物が魔物になって、そんなのドラゴンだって出来ないよ。

 もうすぐ来るんだし、教えてよ。どんなんだったかーとか、どうやって倒したかーって、本人から聞きたいじゃん!」


 話の合間にぱくぱくと食事を飲み込んで少女が問いかける。

 老人は、ゆっくりとグラスの中を飲み干して、静かに語り始めた。



「ああ、話して聞かせよう。

 獣たちを魔物に変え、人間たちを砂に変え、我が故郷を地獄に変えた、あの男の話を。

 そして、魔王となった男を殺したあの英雄の、少女の話をな……」




「い、いかんぞ君、その話をさせると3時間は席を……」


「ええいわしの話を聞かんか! 誰が貴様の尻を拭いてやったと思っとる!!」


「ひぃ!」


「おかわり!」


「誰か火持ってねぇ?」


「帰りたいのだが」


「……せめて飲むしかあるまい……」



 日の落ちぬ明の国の夜は、騒がしく更けていった。


一つ区切りがつくごとに場面を大きく転換させてその後の展開を臭わせたり、複数の物語を同時に進行させたりといったことに憧れていたので書いてみたが予想以上に説明だらけになってしまったのでもっと幼女が暴れていたらいいなぁと思いました。



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