表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

009 誰かがこう呼ぶロリメイカー

「なるほど、王都へ行きたいのか」


 馬車の端に腰掛けた竜の角と尻尾が目立つ幼女、リズが腕を組んで頷いた。

 やけに現代的……現代日本的?でお子様らしいビビッドカラーの格好が場に浮いている。


 姉ちゃんはまだ目が覚めないので、膝の上に頭を寝かせている。

 痺れてきたが、いつも抱っこされていたことを思えばなんてことはない。


「そこに行けば両親の知り合いがいる……はず、なんだ」


「王都となぁ……元の姿に、少なくとも飛べればなんとかなるやも知れぬのじゃが……」


 うっかり発動したロウ・リメイカー(チート能力)によって、竜であった彼女は幼い子どもの姿になっている。

 それはつまり、無意識でロリになるのを俺が本気で望んだ、ということになる。

 自覚はないが、まぁ俺ならばやりかねないという自信はある。

 元の世界でも上司や客をロリっ子に脳内変換して心の平静を保っていたことは数知れない。


 ただ、問題なのは元に戻せないことだった。

 

「魂魄にまで侵蝕しかねん事象法則の書き換えじゃ。

 むしろ我でなければ体の一部でも竜のままでいるのは無理であったろうな」


 彼女曰く、時間をかけて術式を組み立ててれば一時的には戻れるらしいが、すぐには無理という。

 翼だけでも使えれば飛行魔法との併用で飛べるが、それもまだかかりそうである。


「やっぱり、歩くしかないだろうか? 王都までどのくらいあるんだ?」


「さぁ? そもそも我が知っている王都と同じ場所とも分からぬからのう」


 足をぶらぶら遊ばせて、幼女は空を見て笑う。

 太陽は傾いてきて、もうしばらくすれば夕暮れ時になるだろう。

 日が沈んでしまえば電灯などない森、野原を歩くことなど危険極まりない。

 ましてや川に落ちてしまえば……


「そうだ、川だ」

「んぬ?」


 思いついて、そっと姉ちゃんの下に上着を滑り込ませてから、立ち上がる。


「この馬車の荷台を川に浮かべて、そこに乗って下れば村まではいけるんじゃないか」


「なるほどの」


「川幅も十分だし、流れも穏やか。水漏れしないように出来れば……たぶん」


 改めて馬車を見る。

 長距離の移動は考えない、あるいは行商人を装うための荷馬車。

 サイズは幅は大人が横に座ってギリギリ、長さは大人が寝ると足がはみ出るくらい。

 車輪は二つ、少しがたつくが許容範囲内。

 材木は古さを感じるものの、しっかりと組まれていて頑丈だ。

 屋根代わりの幌は汚れてはいるが穴は見当たらない。

 荷台の底をこれで覆えば即席のイカダ代わりになりそうだ。


 早速、幌がくくられた片側を外していく。外し終えれば荷台の下を通して、またくくる。

 車輪は川まで運ぶのに必要なので残しておく。

 途中で外れないように馬を繋いでいた紐で補強する。

 物見台の腰掛け板を必死に引っ剥がしてオールにする。


 これで最低限の機能はあるだろう。

 あとは実際に浮かべて沈まなければ成功だ。


 とはいえ、子どもの体、日曜大工もしたことのない手際の悪さ。

 文字にすればたった数行のことも、おそらくは一時間かもっとかかっている。

 陽は傾いて徐々に赤みを増していた。



「よし、お前をバッシャー号と名付けよう……!

 リズ、こいつを川まで押すから手伝ってくれるか?」


「くくく、我が力を欲するか……よかろう」


 二人で馬車を押す。

 道の先は川に向かって下りの傾斜になっている。

 子どもの力でも、そこまで押せれば問題ない。

 障害物はないので、下り始めさえすればいい。


 だが、思ったより馬車は重い。

 馬一頭でこれと大人二人、子供二人を引いていたのか。


「くっ、おのれ……我の力が戻ればかようなもの一捻り……」


「ひねるな……!」


 少しでも車輪が動けば進むはず、だが最初の一歩が子ども二人ではキツイ。

 やっぱり大人、少なくとも高校生くらいの体になっておけば……!

 今からでもなれれば……!


「無理だな!」


「根を上げるのか我が主人よぉ……!」


「ええいなんとかなる、死ぬ気で押せ!」


 二人で声を上げて押す。

 隣の幼女に食われて下半身だけになった馬はこんな重労働の果てにあの仕打ちを受けてしまったのか。

 せめて心の中で弔ってやろう。安らかに。

 そして今の俺達に力を貸してくれ――


 ぎ、ぎ、きぃ


 音を立てて車輪が動く。

 馬車が進み出す。


「やったね、ろーくん」


「うん、ありが……姉ちゃん大丈夫?」


 いつの間にか隣で姉ちゃんが一緒に押してくれていた。

 そのまま、馬車はゆっくりと坂を下りて、水しぶきを立てて川に飛び込む。

 端っこがまだ岸に残っているが、前方はしっかりと浮いている。

 少し押せば流されて行くだろう。

 完璧である。


「で、どーするの、これ?」


「これで川を下って、一度村まで帰ろうと思うんだ」


「そっか……うん、いいと思う。じゃあ」


 ぴょんと中に飛び乗る。

 そして、こちらへ手を伸ばす。


「すごいね! ちゃんと浮いてるよ!」

「あ、うん。よかった」


 やはり、なんだかんだで俺はこの人に助けられている。

 たぶんまだ彼女の中では赤ん坊、あるいは小さな子どもなのだろう。

 まぁ実際に小さいが。


 荷馬車に乗った衝撃からか、バッシャー号がゆっくりと流れていく。

 想像よりも流れは遅いが、水漏れもないようで一安心だ。


「ほら! ちゃんと進んでる! すごいんだね、ろーくんは」


「それほどでも」


 とにかく、いつか彼女に頼ってもらえるように。

 こんなギリギリではなく、しっかりと助けてあげられるように。

 改めて夕日にそんなことを思った。




「待つのじゃ! 主様! 我まだ乗ってない!」


 尻尾を振って幼女が駆けてきた。


「なんで乗ってないんだ!!!」

「あれ、あの子は?」

「ええと、その、そこで会って! 一緒に付いてきてくれるって!」

「じゃあ一旦止めなきゃ!」

「待って考えてなかった! て、手ぇ伸ばして手!」


「ま、待て、この体ではそこまで届かぬ……」


「飛んで! 捕まえるから! 飛んで!!!」


「ぬ、おおおーーーっ!!」


 全力の跳躍は見事に俺の腹部へ直撃し、めり込んだ角で一気に意識を刈り取られたのであった。



「ぐ、う……っ」


「の、じゃあ……」



 ああ、尖ってなくて、よかっ、た。



「ど、どうしよう……どうすれば……い、痛いの痛いの、飛んでけー」



コメント、評価、誤字脱字報告などなどいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ