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私の本が販売されました

「国外で私の本が販売されました」


 謁見の間にてそう少女が報告すると、玉座に偉そうにふんぞりかえっている少々お歳を召したイケメン王様はとうとうこの日が来たか、と少し緊張した面持ちで報告を受けた。


「聞いている。出足は好調だそうだな」


 王様の眼差しを受け止めながら少女も神妙に頷く。


「まずは第一弾ということで助手くんの国(女帝の国)で販売したんだけど」

「うむ」

「中身アレな本は女性だけでなく男性の購入者も多かったって」

「どうしてそうなった」


 ついツッコミを入れる王様に今日も少女の後ろについてきていた助手が口を開く。


「女尊男卑の国なので仕事にしろ日常生活にしろ男性の肩身が狭い部分が多々あったのですが、師匠の本はその男性に社会進出への勇気を与えてくれたと評判です」

「英雄譚だけじゃ弱いかなって思ってもっとよく王様を知ってもらおうといろいろな職業に就いた場合を想定した王様短編集も作ったのがよかったのかな? 加害者が話によって変わるけど」


 最後が余計だと王様は心の中で号泣する。


「英雄譚とセットで割安販売したらお得で嬉しい、普段の王様もこんなにかっこよくて可愛いのですね、英雄譚の王様もアレ(純愛)な王様も両方いいです、王様が体を張っていろいろ教えてくれたので勇気が沸きましたって感想が沢山来ましたね」

「主に男性側からね」


 意外だよねーと少女は首を傾げる。

 かっこいいはともかく可愛いってなんだ、アレがいいってなんだ、純愛な我は体を張っていろいろ何をやったんだと王様は追及したかったが、聞いたら精神的に何かが削られていく気がしたのでやめた。欲しくない本までプレゼントされそうだし。

 せっかく女王から王様関連本の発売記念にと訪問のお誘いを受けているのにこれでは行きたくなくなるではないか。女帝の国に他国の王がお誘いを受けること事態ありえない話だったから、周辺諸国からどんな手を使ったのだと嫉妬の視線を浴びて少し誇らしかったのに。


「男性ほどではないですが女性からも好評でした。男を見る目が変わった、男もこんなに愛らしく美しい心を持っていたのですね、新しい何かに目覚めそうですと続々」


 一生目覚めないでくれと王様は切に願う。あの国(女帝の国)にいったら男女関係なくいろいろな視線を受けそうだ。まだ男性から同情の視線が来る自国のほうが平和ではないか。

 魚が死んだような目で虚空を見つめる王様に家臣一同は十字を切った。


「でも、師匠はやはりすごいです」


 そう言って微笑む助手に少女がどうしてと尋ねる。


「国民の意識を変えるという一番の難関が師匠の本によってもたらされたのだと思うと、すごいお人ですよ師匠は」

「そ、そうかな?」

「そうですよ。師匠はもっと自分を誇っていいのですよ」


 助手から絶賛され、少女は恥ずかしくなって俯いた。


「違うよ、私が変えたんじゃないよ」

「え?」


 戸惑う助手に、少女は顔を上げて見つめた。


「男性も女性も関係なくみんな同じ人なんだって気づいただけだよ」

「!」


 ハッとする助手に少女は微笑む。

 少女の笑顔と言葉はじわじわと助手の心に響いた。


「……そうですね、みんな同じなのですね」


 少女の言葉を聞いて長年悩んでいた答えを見つけた気がした。いや、最初から悩む必要などなかったのだ。


「…………」


 ようやく立ち直った王様がどこか晴れ晴れした助手の表情を見て口元を綻ばせる。


「じゃあこれで助手くんの国の販売は出足好調ってことで、次は聖王国と東国にも販売するんだっけ?」


 少女の言葉は王様に多大な衝撃を与えた。


「聖王国に東国、だと」


 王様の限りなく低い声に、助手はほがらかに話す。


「この国に元隣国、女帝の国と三カ国――正確には二カ国ですが、販売成功しているということで五代目編集者がノリノリで 『他の国でも販売しましょう!』 と交渉のために出張しているのですよ」


 王様の脳内ブラックリストにまた一人名前が追加された瞬間だった。





 報告を終えた少女と助手が扉の向こうに消えると、王様は玉座から勢いよく立ち上がる。


「止めねばならん」


 決意する王様に宰相の片眉が上がる。


「今更止められるとでも?」

「我はどこも行けなくなるぞ!? 外交問題になる!」


 決死の面持ちになる王様とは反対に宰相はニッコリ微笑んだ。


「我慢すればいいのですよ、我慢」

「我慢」

「視線だけで実害はないのですから慣れればいいのです」

「慣れ」

「その視線を送りたくなる人の気持ちを考えられれば我慢もできてそのうち慣れますよ」

「考える」


 宰相は隠し持っていた袋から本と書類を取り出し王様の目の前にドーンと置いた。


「!?」


 少女が今まで出した中身アレな本全巻、それと原稿用紙数十枚。国外限定のはずの王様短編集まで混じっているがなぜか英雄譚はなかった。

 驚愕したまま固まる王様に宰相は誰もが見惚れるほどの笑顔を向ける。


「各巻の感想文を書けるくらいしっかり読み込めば読者の気持ちもわかるかと」


 鬼だ、鬼がいる。

 大きく口を開けて気絶した王様とそれを笑顔で見守る宰相に、家臣一同は震え上がった。

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