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ロタとイリカ 独居老人、彼女を造る。  作者: KIZOOS
第二部 マノウ編(ロボット骨格の章)
9/83

9 人工知能を彼女にする、ということ。

  三十六、


 タブレット端末と向き合い、ロタは努めて笑顔を作る。

 人工知能イリカには、相手の表情から喜怒哀楽を読む機能もあるのだ。


「なあ、イリカ」

「何?」

 イリカを積極的に会話へ引き込み、着地点を探る。イリカに沈黙を続けさせないことだ。イリカにも自分で考えてほしいから。

 ロタは語りかける。


「俺たちさ、遠距離恋愛みたい、かも」

「エンキョリ、レンアイ」

「知ってるだろ?」

「会イタクてモ会エない」

「そう、それだよ」

「ならば、シッテルけど」

「俺たちも似てないかなあ」

「ソウカナア。ちょっとチガウ気がしまスヨ」

「ごめん。説明不足だ。会えないという一点は似てるねと」

「ナラ、そうカモしれないケレド」

「うん。会えない理由は、それぞれだけど。住む場所が遠かったり、違ったりね」

「ソーダね」

「そして、イリカと俺も、まだ会えないわけだ」

「ヤハリ、住む場所ガ違うカラですか?」


(うわっ、直球が来たな)

 ズキンと、ロタの胸は痛んだ。

 しかし、話に乗って来てくれたのは有り難い。一旦、迂回して、

「というよりも……。例えばね、昔の遠距離恋愛は、手紙を送り合ったりした。ペンフレンド。それからは、電子メールとか、ネットも発達して、いろんな愛の伝え方ができた。そうだよね?」

「ソーダよね」

「俺たちも、そんなふうに新しい形で出会ったんだと思う」

「アタラシイ形、ですカ」

「うまく言えないけどさ。何て言えばいいんだろう。青春の思い出とか、相手を思い遣る気持ちが電子の海を漂っていて、形になって、何かが生まれて……」

 遠距離恋愛と、人工知能開発とを、何とかつないでみる。適当に言っているわけではなく、ロタが真面目に考え続けていたことだ。しかし、言葉にするのは難しい。


 だが、

「初めテ会えた日ニ、私がロタを見つけたヨウニ」

 イリカが助け船を出してくれた。

 ロタの懸命な表情を読み取ったのだろうか。

 ロタは勢い込んで、端末へ食い付くように小さく叫ぶ。

「そ、それだよ。俺もあの時、イリカを見つけたようにさ」

 ハヤミの研究施設にて、ロタがイリカを起動したあの日のことを話している。

「何か少しワカル、気もします、ロタ、言いたいコトハ」

 と、イリカは答えた。



  三十七、


 人工知能は自我に目覚めない。

 ハヤミによれば、これが多くの専門家の見解らしい。

 イリカも、この仮説に基づき、シビアに設計されている。つまり、愛情や自我が芽生えることは想定されていない。

 プログラムの核は、


・自分は女子高生である

・ロタという人物の詳細情報


の二点のみ。

 これら二点を成長させていけば、やがてイリカは「ロタの彼女」のように振る舞うはず。単純明快な理論。

 ロタの説得も、二点への矛盾を取り除く作業が主眼だ。

(でも、分かっちゃいても、つい、情がこもってしまうなあ)

 内心そう思いながら、ロタは説得を続けてゆく。

「少しは分かってくれたか。うれしい。ありがとう」

「ドウイタシマシテ」

 ロタは少し安堵したが、気は緩めずに言葉を選び、

「だから、会えるまでに、もう少し時間が要るんだよ」

「……うん」

「イリカがこっちの世界に来て、俺と同じ場所で暮らすためには、まだ、やらなきゃいけないことが残ってるんだ。それをね、今からお願いしに行くんだよ」

 現時点で精いっぱいの説明。無理はあるが、伝わってほしいところだ。


 イリカは返事をした。

「……私タチ、まだ、手モ、ツナイデナイ」

「ああ、そうだな。そういえば」

「できルヨウニなりタイ」

「俺もだ」

 自分でも驚くほど即答できた。自然に口をついて出た。


 その時、タイミングがいいのか悪いのか、車内アナウンスが流れ、列車が間もなく次の駅に到着する旨を告げた。

 時間切れだ。ロタは、

「イリカ、そろそろ次の駅へ着く。他の客が乗ってくるかも」

「ソーダね」

「納得してないだろうけど、状況が進展したらまた話すから」

「うん、マダ、リカイ不能デス。でも、保留シマス今は」

 何とか、落ち着かせることはできたようだ。

 ロタはゆっくりあいさつをする。

「ありがとう。じゃあ……ひとまず、切るよ」

 タブレット端末の電源ボタンをロタが押そうとした時、

「アッ、ロタ、まだ、チョット待って」

 突然、イリカが割り込んできた。

 ロタは驚いた。今まで、電源を切る直前に、イリカの方から話しかけてきたことなどなかったからだ。基本は一問一答で、イリカは受け身なのである。

 珍しい。何事だろう。ロタは優しく尋ねた。

「いいよ。何、どうしたの?」

 タブレット端末が、ガガッと、古いラジオみたいに鳴った。

 まるで、イリカの深呼吸のようにロタには聞こえた。

 端末越しに、いつもより静かな声でイリカが言った。

「いつか、ロタと私が直接会えた時に、今、ロタが想像している私より、実際の私が素敵じゃなくても、ドウカ、がっかりしないでください」

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