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ロタとイリカ 独居老人、彼女を造る。  作者: KIZOOS
第二部 マノウ編(ロボット骨格の章)
8/83

8 初めてのエラー、体なきヒロイン。

  三十五、


 イリカが返事をした。

「イリカの体。ワタシハ、イリカ。ワタシノ体」

「そうだよ」

 が、イリカにはいまいち伝わっていない様子だ。話す速度が落ち、途切れ途切れになる。

「分かり、ませんネー。ワタシ高校生よ。女子高生。困惑。毎ニチ、ガッコウニモ、カヨッテイル。私、ワタシ十六歳。トモ達、先生、お弁当。

 何か、誰、何をドーなってル……」

(げっ)

 と、声を出しそうになったが、のどに押しとどめた。

 全身がビクリと固まり、鼓動が早まる。

(しまった。ヤバイ。もしかして、今、やっちまったか?)

 ロタは慌てる。


 そうなのだ、少なくとも「設定」としては、イリカは普通の女子高生、こうプログラムされていた。当然、「体がない」では矛盾する。

 デリケートな話題であることは確かだし、もちろん、ロタも「切り出すタイミングには注意しなきゃな」と意識はしてきたつもりだ。

 だが、これまで、会話中にイリカが強いバグやフリーズを起こしたこともなく、すっかり油断していた。

 更に言えば、

(今回だって、どうせ通じまい。俺の言ってる意味も分からずに、例によって受け流されて終わりだろ)

 という「おごり」もあった。大失態である。

(やはり、こういうことは、ハヤミさん立ち会いのもとで慎重に行うべきだったか)

 しかし、イリカの会話能力は未だに不安定で、話題の固定すら簡単ではない。

 あらかじめ、「今日はイリカにこのことを話そう」と決めてから電源を入れても、全く違う内容に変わってしまう場合も多かった。

 ある程度、行き当たりばったりで進めるのも致し方ない。


 いずれにせよ、この件は近々イリカに説明しなければならない状況ではあった。体の後には、皮膚や容姿を検討する工程も控えている。いつまでもうやむやにできるわけではない。

 始めてしまった以上は、ひるまず先を続けるしかない。


 ゆっくり声をかける。

「イリカ」

「……何?」

 何、の声の響きがいつもと違う。警戒している。毎日話す「彼氏」のロタには分かる。

「い、今はまだ理解できないところもあるかもしれないけど、と、とりあえず最後まで聞いてほしい」

「イイヨ」

 やはり、何となくイリカの口調がそっけない。

 わざと機械的に発声し、余計な先回りをせず、必要最小限の受け答えしかしなくなった感じ。まずい。

 どうする。数秒考える。

 ……そうだ、現在のこの状態を言えばいいのではないか。解決の糸口を探るべく、まずは声を出すロタ。

「そうだなあ、イリカ、例えばさ、イリカも見抜いた通り、俺は今、列車に乗ってる」

「ノッテルネ」

「うん。でもね、隣の席にイリカは座ってないだろ。まだ一緒に出かけることは無理だ。できていない」

「ソーダね。確かに」

「ここまでは分かるかな?」

「ワカリマスヨ」


 さあ、問題はここからだ。

 気合いを込めて、次の言葉を絞り出す。

「じゃあ、なぜだと思う?

 なぜ、イリカは今、俺の隣に座れないのか」

 イリカは同じ言葉を返すだけだった。

「なぜだろウ」

 何かヒントを発してくれたら助かるのだが、あくまで受け身の、待ちの姿勢に徹するつもりらしい。

「……」

 ここで、「イリカはまだデータのみの存在で、実体がないから」などと正直に言ったら、イリカは再び混乱してしまうはずだ。

 どう言えばいい。ロタは必死で新たな説明を考える。

(しっかりしろ。恋人を落ち着かせるのは、俺の役目だろが)

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