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ロタとイリカ 独居老人、彼女を造る。  作者: KIZOOS
第三部 クミマル編(ロボット外見の章)
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33/83

32 ロタ、ホビーイベントへ。

【登場人物】


・ロタ 五十代の独身男性。恋人としてイリカ製作を構想


・イリカ 美少女ロボット。脳、体、顔に分けて開発中。

 脳部分はカスタマイズと縮小作業段階。

 体部分は試作第二号製作段階


・マノウ 町工場社長。部品・ロボット技術に定評あり。

イリカの体、動力を依頼


・リモリ 見習い技術者。マノウの娘


・ドワキ ロタの親友。工学博士


・ハヤミ 女性科学者。人工知能分野の権威

  八十六、


 ここで、物語の舞台は、また過去へとさかのぼる。


 定年退職を迎えた初老のロタが、完成版イリカと対面した日から、七年半ほど前。

 元々、十か年計画である。

 すなわち、プロジェクト開始から約二年半後ということになる。

 ロタが、人工知能イリカと「互いに守り合う」ことを約束した、あの春から半年弱。

 脳部分のイリカと、動力部分のイリカ、二つは今や別々の機構として存在していた。

 紛らわしくなりそうなので、今後は、


・ハヤミが管理する人工知能部分は「脳イリカ」


・マノウが管理する動力・骨格部分は「ロボイリカ」


 と呼んで区別を付けることが決まった。

 どちらも「イリカ」であることは確かだからだ。

 これはロタのアイデア。関係者間で合意がなされた。


 さて、ここまで来たら、次の工程は何か。

 言うまでもなく、ルックスである。

 ボディーの外側を覆う皮膚、頭部を包む髪の毛、何より、顔。

 イリカ製作は、いよいよ最終段階へ入ろうとしていた。



  八十七、


 その最終工程を依頼した人物、クミマル。

 クミマルを見つけてきたのはロタである。


 ハヤミにせよマノウにせよ、ロタが自分で見つけたわけではない。渡りを付けてくれたのはドワキたちである。

 これは別に、おかしなことではない。

 ロボット分野に関してはロタは素人であり、部外者だからである。立場としては客、依頼人にすぎない。むしろ、ドワキらに任せた方がうまくいきやすいはずだ。


 本来なら、イリカの皮膚・ルックス担当も、ドワキやハヤミ、あるいはマノウに探してもらった方が自然であったろうし、実際、そのような動きもあった。

 しかし、なかなか候補も見つからぬ中、たまたまロタが発掘してきたのである。

 そう、ロタとクミマルの出会いは偶然であった。

 それは、ある日のイベントのことであった。



  八十八、


 季節は秋になり、外出しやすい気候に変わった。


 その日、出不精のロタとしては珍しく、家からやや遠い、海沿いにあるドーム状の施設へ出かけた。

 全くの気まぐれ、というわけでもなかった。

 プラモデルやフィギュア、漫画関係の、大規模な展示会のような催し。プロもアマチュアも出展している。


 ロタは元々、漫画を読むのが嫌いではない。

 加えて、プラモ、フィギュアの出展もあるのなら、イリカの造型などに参考となる物を発見できるかもしれないと思ったのだ。


 昼頃、ロタは会場へ着いた。

 外は雨。傘を折りたたみ、ビニールケースへしまう。

 ここは巨大な屋内施設。ひとたび中に入れば、当面は雨を気にする必要もないのだ。

 気圧差というのか、ドームへ入場する時に浴びる強風は、匂いも含め独特である。

 中へ入ると、円形の下り階段のように、下方をぐるりと客席が囲む。はるか下の方に、屋台やブースがひしめき合っていた。

 普段は野球の試合をするスペースだ。なお、本日、客席は立ち入り禁止。


 ロタも、一人階段を下り、人波に加わる。

 片隅には特設ステージ。

 長い茶髪の、二十歳前後の女の子が、ヒラヒラのワンピース衣装で歌い、踊っている。

 聞けば、このイベントを主催するフィギュア会社のイメージガールだという。


「最初は八人いたんですけどね、」

 と、スタッフらしき男性が、ロタへビラを手渡しつつ、眼鏡越しの目をくしゃくしゃにした笑顔で教えてくれた。

 年齢はロタと同じくらいか。

「だんだんみんな辞めていきまして、今はあの子一人なんですよ」

「大変ですね。お一人とは。でも、続けていらっしゃるのはすごい」

 と、ロタは答えた。


 受け取ったビラへ視線を落とすと、元々は南方のある県の「ご当地アイドル」らしい。地元物産の販促も担当。

(あっ、マノウさんの県に近いな)

 ロタは気付く。

 彼女の「追っかけ」らしき男性たちが二十名ほど、ステージ下で声援を送っていた。

 鳴子を鳴らす者、横長の大きな旗を振る者もいる。

 辺りにいる漫画やプラモ好きの人たちとは、また雰囲気が違う。色々な世界があるのだなとロタは感心する。


 その近くのショーケースには、アニメキャラを模した精巧な美少女フィギュアが数体飾られていた。人の背丈の半分くらいのサイズ。

 本格的な一眼レフカメラで、それらを熱心に撮影する者たち。

 こちらの熱気にもロタは圧倒された。


 ロタには、特に道楽はない。

 そのため、昔から、以上のような人たちが少々まぶしく、うらやましい。だからこそ貯金が増え続け、今に至るわけだが。


 そして、その大金を今、老後の「美少女ロボット製作」へつぎ込んでいるのだった。

 しかも、ステージで歌っているアイドルより、あるいはショーケースのフィギュアより、相当「かわいくない」仕上がりになるかもしれないというのに。

(今、この会場にいる全ての趣味人の中で、もしかすると、一番、俺が物好きかもなあ)

 そんな自嘲気味のことも思いつつ、広い会場をロタは見て回る。軽食の屋台もあり、広大な室内縁日、といった様相だ。


 やがて、漫画のエリアに出た。

 数多くの長テーブルがほぼ均一に並べられ、皆が自作の漫画作品を並べて販売している。大判で、薄い本が主流だ。

(よくは知らないが、同人誌というやつかな)

 ふと、そのうちの一つ、ひつじのフィギュアや少女漫画が並べられたテーブルに目が止まる。


 だが、その長テーブルの隅には、何と、リアルな腕の模型が無造作に置かれており、

「うわっ!」

 と、ロタは低い悲鳴を上げ、後ろへ小さく飛びのく。

 すんでのところで、周囲の客にぶつかりそうになり、ロタは会釈して謝る。

「だっ、大丈夫ですかっ?」

 長テーブルの向こうから、やや小柄の女性が声をかけてきた。ここのコーナーの担当者。他に客はいない。

 笑ってはいるが、どちらかといえば慌てた反応。

 下ろした豊かな黒髪、小さな眼鏡。帯の巻かれた、華やかな着物姿。年は三十代か。


「何ですか、この腕は。あっ、耳もある。心臓に悪いや。じ、人体模型ですか?」

 ロタは尋ねる。まだ、鼓動がバクバクと高鳴っている。

 着物の女性は軽く首を振って、

「いえ、医療器具だそうです」

「だそうです?」

 ロタのいぶかしげな聞き返しに、女性はニコリと歯を見せて、

「私が作ったんじゃないんですよ。ごめんなさい」

「ああ、道理で、」

 ロタはうなずき、

「この二つだけ浮いてるわけだ」

 と続けた。


 女性はふふっと笑い、

「ですよね。私は少女漫画家ですから」

「フィギュアも?」

「ええ、私が作りました。こちらの、リアルな腕と耳だけは違います」

 漫画家は、腕の模型を持ち上げる。

 模型は、きゃしゃな片腕だ。恐らく女性の。

 カラフルなネイルアートも塗ってある。長さは、ひじの上くらいから。


「あっ、断面は金属になってる」

 と、ロタが気付く。

「そうなんですよ」

 と、漫画家の女性は答え、その金属部に自分の指を差し込み、つまむような仕草をした。

「あっ、動く」

「そうなんですよ」

 と、ロタと漫画家は、似たせりふを交わした。


 驚くべきことに、漫画家の「操作」に合わせ、腕の模型が、五本の指をグー、パーと、曲げ伸ばししたのである。

 さすがに、人間の動作ほどには滑らかではない。しかし、おもちゃとも言えない。関節もうまく曲がっているし、人体に忠実な作りをしていた。

 すなわち、腕の模型の内側にはきめ細かな「線」が張り巡らされているということだ。

 ロボットの部品だろうか。

 それとも、義手であろうか。


「こっ、これ、これは、どっ、どなたが?」

 興奮の余り、ロタは声がつかえてしまう。

 言うまでもなく、この技術をイリカ製作へ使えるかもしれないと思ったからだ。

「クミマルさんです。私の友人の。せっかくのイベントですので、宣伝も兼ねて、飾ってあげてるんです」

 と、漫画家は言った。


 これが、クミマルの作品と、ロタとの出会いだった。

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