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ロタとイリカ 独居老人、彼女を造る。  作者: KIZOOS
第二部 マノウ編(ロボット骨格の章)
20/83

19 リモリ・ロタ、二人三脚ガールズトーク。

  五十五、


「いや、まあ、こっちの話さ」

 ロタは明るく、努めてさりげない口調で返答した。

 本当は、急に通話を切った昨日の件をまずイリカに謝る予定でいたが、リモリのファインプレイ(?)で会話が勝手に始まったのだし、流れに任せようと決める。


「コッチ、それはドチラ側?」

「ええと、つまりね……」

 ロタは一瞬迷ったが、この際、いきなり本題へ入ることにした。前置きは省略だ。

「後ろに、あと二人、他の人がいるのは見えてる?」

「ハイ、確認デキマス」

 ぎこちないものの、今のところ何とか会話が成り立っていることにロタは安堵しつつ、

「イリカから見て、向かって左の男性がマノウさん、俺の右にいる女性がリモリさん」

 ほほえんで画面へ会釈するマノウ。まだ戸惑いの表情。

 対照的に、

「リモリです。よろしくね。イリカちゃん、私の声、聞こえてるー?」

 陽気に叫ぶリモリ。

 しかし、イリカは無反応であった。やはり、ロタの声しか聞き取れないようだ。

「ちぇっ、ちょっと期待したのになあー」

 リモリが口をとがらせる。


「私はどうかな。イリカさん、聞こえていたら応答してください。イリカさん、マノウです」

 と、一応マノウも試してみたが、やはりイリカは応答せず。

 マノウはこの時、ロタの肩越しに首を伸ばし、テーブル上のタブレットへ口を近づけ、相当な大声を張り上げていた。

 物静かなマノウにしては積極的で、ロタは少々驚いた。理系の専門家としての、抑え難い好奇心なのであろう。


 ロタは話を続ける。

「こちらのお二人は、イリカが俺の、ええと、俺のそばに会いに来られるように、それを、そのことを手助けしてくださる方々なんだ」

 つっかえながらも、どうにか説明する。

「うん。キノウ話シテいたコトだよね。了解」

 覚えていたか。ズキンとロタの胸が痛む。謝るなら今だなと思う。

「ああ、そうだよ。イリカ、昨日は急に話を打ち切っちゃって悪かった。ごめん」

「ゴメンってコトハナイ。大丈夫デスヨ」

「こちらのお二人と色々話して、俺も気持ちの整理をつけてるところだよ」

「整理整トン、大事ヨ。私、マダ、ヨク認識できてないケド、ネ」

「わかってる。無理もない。一つずつ、ゆっくり考えていこうよ」

「ソーダね。いいよ。一つずつネ」


 そこへ、リモリがスッと、ごく自然に入ってきた。

「イリカちゃん、心配ないから」

 タブレット画面越しに、リモリとロタの目が合う。

 リモリがウインクする。

 リズムを崩さぬように、ロタもすかさずしゃべる。

「イリカ、あのさ、ちょっとよく聞こえないかもしれないけど、今、リモリさんがイリカに話しかけたんだよ」

「ソウナン、ですカ」

「ああ。リモリさんが言ったこと、繰り返すよ。よく聞いて。

 イリカちゃん、心配ないから」


「アリガ、トウ。女の子デスヨネ、リモリさんハ」

 イリカはそう答えた。

「きゃあ、超うれしい!」

 感激したリモリが飛び上がる。ほほに赤みが差していた。

 ロタも、うれしさと驚きで顔が熱くなるのを感じた。

 声こそ聞き取れなかったにせよ、ロタ以外の人間を、イリカがちゃんと話し相手として認識したのだ。感動的な瞬間である。



  五十六、


 この後も、リモリのせりふをロタが繰り返すという形式で、会話は続けられた。

 中には、ロタにとっては言うのが恥ずかしい言葉もあったが、約束通り、リモリの言ったことをロタは忠実に繰り返した。


 リモリとイリカの会話の様子は、以下の通りである。

 まず、リモリがしゃべる。

 同じことを、ロタが復唱する。

「改めまして、こんにちは。リモリです。年は十九歳です」

 イリカが答える。

「コンニチハ。ワタシハ、イリカ。十六サイです。ヨロシク」

「よろしくね。これから、幾つか質問をします。いいですか?」

「ドウゾ」

「ロタさんと直接会えたら、まず何をしたい?」

「具体テキニハ、分からない。ロタ次第という気モシマス」

「そっかー。じゃあ、どんな服装をしたい?」

「ソコから、フクソ、含みおき、含み、ジャー」

 通じなかった。


「ごめん、もっと簡単に言うね。服は、何を着たいですか」

「ロタは、スカートはミジカイノガ好きミタイ」

 きゃははと笑うリモリ。

(先日、そんな話もしたっけな)

 ロタは思い出して苦笑する。


 会話続行。

「男の人はそうだよね。でもさ、ズボンもいいよ。こんなのとか」

 ロタは、リモリの言葉を繰り返した後、タブレットを持ち上げ、リモリへ向けて「撮影」した。すなわち、イリカから「見えやすく」したわけだ。

 リモリは片膝を曲げ、首をかしげてモデルのようなポーズでおどける。吹き出した父親を横目で軽くにらむ。

(へえ、マノウさんも笑うんだな)

 タブレット端末を元通りテーブル上へ戻しながら、ロタは思った。


 イリカの返事は、

「似合イ、マスヨ」

「へへへー、ありがとー。イリカちゃんも着れるよ」

「いいえ。タブン、私ハ、キラレない」


 場の空気が凍り付く。特に、男性陣二人の顔がこわばる。

 いきなり、話が核心に来た。


 だが、リモリは余り動じない。ロタとマノウへ目配せし、

「任せて。ここからが、ガールズトーク本領発揮。じゃあ、ロタさん、また通訳お願い」

「あ、ああ」

 リモリを信じて、ロタは引き続き、リモリのせりふをそのまま言っていく。


「どうしてそう思うの?」

「ナゼナラ、実感が伴わないカラ。服を着たりスル、イメージがワキマセン。体はアルはずなのニ。原因不明」

「そうか、うん。分かるよ。私もそうだったから。でも、大丈夫だよ」


 ロタは、リモリの言ったことをタブレット端末へ復唱しながら、

(本当に大丈夫なのか、そんなこと言い切っちゃって。どう納得させる気なんだ?)

 と、内心ハラハラしていた。

 しかしながら。

 この後にリモリがイリカへ言ったことを、ロタは未だに忘れることができない。

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