17 人工知能と、人工女心の狭間で。
五十一、
驚いている二人へ、ロタは経過を順番に説明していった。
まず、人工知能イリカの生い立ち。
「一般的な女子高生像」と「ロタに関する情報」をプログラムしたプロトタイプが、ハヤミによって設計されたこと。
連日、ロタは話しかけ、会話能力の向上を図っていること。進歩は遅いが、徐々に話が通じる頻度も増えてきたこと。
そんな矢先、イリカの体を造ってもらいに行く話をしたら、「もし、ロタの理想通りの外見とならなくてもがっかりしないでください」とイリカから返答され、絶句したこと。
全てを打ち明けた。
時折、マノウは口を挟み、より詳しい解説を求めた。人工知能をロボットの動力にどう接続させるべきか、早くも構想しているらしい。
リモリは、一回だけ口を挟んだ。それは、冒頭にハヤミの名前が登場した時だ。「えーっ、イリカちゃんを造った人って、あのハヤミ先生だったんですか」と、びっくりしていた。まだ、父親からそこまでは知らされていなかったそうだ。
やがて、ロタが全て話し終わると、最初に口を開いたのはリモリであった。
「女性陣の意見が一致したってことですよね」
「女性陣?」
ロタは、立ったままのリモリを見上げて尋ねる。
五十二、
リモリはロタへうなずき返し、寂しそうにほほえんで、
「そ。さっき、お父さんとロタさんの会話を聞いてて思わず怒鳴っちゃったけど、だって、余りに無頓着なんだもん」
「無頓着?」
今度はマノウが聞き返す。娘のリモリは続ける。
「無頓着。女心、乙女心にね。
二足歩行ロボットは確かに不安定だって私も習ったし、実際に展示会とかで本物も幾つか見たことあるよ。
上半身に色んな機能を詰めたり、バッテリーを背負わせたりすると、確かに、脚は太くしないと無理。少女漫画のような細さなんて論外。でもね、」
リモリの寂しそうな目に、光が宿る。やや口調を強くし、
「だからって、脚の細さは後回しでいいというのは違うでしょ。男の人には分かんないのかなあ。私もだけどさ、脚が太い細いって、小さい頃から気にしてたよ。女の子って、すごくそういうの気にするんですよ。
イリカちゃんも、もし、人間みたいな順序で成長するんだとしたら、かなり早い段階で、脚の太さには関心を持つと思うんです。なぜなら、今言った通り、人間の女の子がそうだから」
「あっ」
そういうことか。今ので、ロタも瞬時に合点がいった。
かつてハヤミが説明していた。「機械に自発的な欲望を持たせるのは難しく、人工知能が自我に目覚めることも簡単には起こらない」と。
しかし、イリカには「自分は女の子で、現役の女子高生」という要素や情報が、不完全ながらもインプットされている。
つまり、今、リモリが指摘したように、イリカは乙女心のようなものを初期段階で獲得するかもしれない。それは自我とまでは呼べないかもしれないが、注視すべき要素ではあろう。
その兆候らしきものが、昨日のあの一言ではなかったか。
だとしたら、自分はどうすべきか。
ひたいにしわを寄せ、ロタが考え込みかける。
その時、リモリは両膝に左右の手を当て、屈むような姿勢でロタに顔を近づけ、
「ねえ、ロタさん、お願いがあるんですけど」
女の子の顔がそばに来て、どぎまぎしつつ、ロタは、
「なんでしょう」
「イリカちゃんと私で、話をさせてください。ダメですか?」